モータースポーツ塾


「レーシングカーの素材」
第9回 カラーリングの素材


これまでいろいろな素材を紹介してきましたが、今回は最後の仕上げ、すなわちカラーリングのお話をしましょう。どんなに最新の素材を使って速いマシンを作ったとしても、見すぼらしいんじゃ興ざめですからね!

最近のフォーミュラカーは、ボディやカウルのほとんどがカーボンでできています。で、カーボンの地色は無味乾燥な黒なので、とにかく色を塗らなければなりません。しかしカーボン製品の表面にはピンホールと呼ばれる気泡がたくさん出ていまして、この部分が塗料をはじいてしまうんです。そこでまず下地として、サフェイサーと呼ばれるパテのようなものを吹いて表面をツルツルにならし、それから塗装に入ります。

塗料にはウレタン樹脂系と呼ばれるものが使われます。主剤と硬化剤を混ぜて化学反応で硬化させるしくみの塗料で、塗膜が硬く光沢に優れ、耐候性も高い特長があります。

しかしこのカラーリング方法には欠点があります。重いのです。僕のチームのマシンで、素っ裸の状態に比べると4〜5kgほど増えてしまっています。サフェイサーで厚化粧しなければならないことや、ウレタン塗料自体がラッカーやエナメルといった他の塗料に比べるとだいぶ重いことなどが主な原因です。

重量増を解決し、かつ手っ取り早くカラーリングを施せる手段として最近増えてきたのが、カッティングシートを貼って色をつける方法です。薄く柔軟性のあるフィルムのようなもので、いってみれば壁紙みたないなものかな? これなら、サフェイサーの工程を省略できる場合もあります。ただし、ベースとなる色はたいてい、今でも塗装でやっています。


僕のチームでも、過去に同じカラーリングで、塗装とカッティングシートを併用にしたヤツと、全て塗装で仕上げたマシンの両方を走らせたこともありました。

この2台を比べると、僕の感想としてはやはり全部塗装でやったマシンのほうが美しい! カッティングシートは便利な素材ですが、光沢などの点で見劣りします。シートは極薄ですが、それでも凸凹が見えてしまうし、しだいに色も褪せてきてしまいます。そういえば僕が若かったころのカラーリングといえば、スポンサーロゴなんかは“カンバン屋さん”に来てもらって、写真を見せてフリーハンドでやってもらっていました。「色、お願いします」と連絡するとエナメル塗料と筆を持ってやってきて、それは素晴らしい職人芸で一発でスポンサーロゴなんかをキメてくれました。小文字の“i”の丸い点なんか、クルリッと筆を回すだけで見事な正円が完成! その神業に見ほれて、ずっと作業を眺めていたりしたものでした。



そうそう、最近発見したことがあります。F1のマクラーレンのマシンって、銀から黒へのグラデーションになっていますよね? アレって実は“迷彩塗装”なんじゃないかな。近年のF1は、とにかく情報戦争。ライバルが今何をやっているかをリサーチすることがすごく重要になっています。ところがマクラーレンのマシンを見たり撮影したりしても、ディテールがわかりにくいんです! 空力的に重要な部分はことごとく黒で塗りつぶされていて、どんな形なのか実につかみにくい。巧妙なカムフラージュと言っていい、カラーリング・コンセプトだと思います。敵に発見されにくいということから、“ステルス塗装”なんて名づけてもいいかな!?

最近では塗料の技術も進歩してきて、見る角度によって色味が違って見える塗装、なんてのも出てきました。ウチのマシンも、そんな塗装を施したこともありましたが、この塗装は一歩サジかげんを間違うとただケバいだけのマシンになってしまうので注意が必要です



やっぱりレーシングカーは、誰が見ても美しくエレガントで、憧れの対象であってほしい。ずっとそう願っていましたし、これからもその考えは変わりません。使う素材が変わっても、レーシングカーの美しさは永遠に不滅でなくちゃね!

というまとめで素材の講義はおしまい。


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※この講座は1998年〜2000年まで、本田技研工業のホームページに連載されていたものを再編集したものです。


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