モータースポーツ塾


「レーシングカーの素材」
第8回 プラスチック類


これまでいろいろな素材を紹介してきましたが、そのほとんどが金属でした。今回は金属と並んで現代社会で重要な存在となっている高分子化学製品を採り上げましょう。主に石油から作られる素材で、専門的な定義づけをすると非常にむずかしいですから、ここではプラスチックやゴムといった自動車やレーシングカーに多く使われている素材の話に限ります。

まずはゴム系素材。言うまでもなく、タイヤです。これまでレーシングカーの性能について述べてきましたが、ぶっちゃけた話、速さのほとんどはこのタイヤの性能にかかってきます。マシンの力を最終的に路面に伝えるモノですからね! ただしタイヤの話をしだすと、それだけでインターネットへのアクセス代がタイヤメーカーの1年間の活動費くらいになってしまいますから(!?)、これくらいにしておきましょう。

タイヤに全精力を使いはたしたワケでもないてでしょうが、レーシングカーにおけるゴムの出番は、今ではそれほど多くありません。振動やショックを嫌う部品(コンピュータなど)の取り付けに使うくらいです。かつてはヘスケスというF1マシンが、サスペンションのコイルスプリングの代わりにゴムを使ったことがありました。ゴムは圧縮されるに従い固くなる性質を持っています。サスペンション性能の重要な要素である“可変バネレート”というものですが、ゴムはその点で都合のいい素材だったんですね。しかしゴムはダンパーとしての性質もあわせ持っており、スプリングとダンパーのセッティングを独立してシビアに突き詰めなければならない現代では、ひとつの部品でふたつの機能を持っていてはかえって使いにくい。というわけで消えていきました。現在では、市販車ですが、イギリスのミニくらいにしか使われていません。


さて、最近、環境問題で話題にのぼることが多いプラスチックに、ポリカーボネイトという素材があります。加熱するといわゆる環境ホルモンという物質を発生するとして一般社会では敬遠されつつありますが、レースの世界ではヘルメットのバイザーがこの素材です。耐衝撃性や透明度といった点で優れているからです。ジェット戦闘機のF16のキャノピーもこの素材といえば、優秀性がおわかりでしょう。「広い温度範囲にわたって強じん性と剛性が一定の透明素材」とモノの本にはあります。バイザーなどには表面に特殊なコーティングを施し、耐油性や表面硬度を上げた素材を使用しています。


続いて、フライパンなどの表面加工でおなじみのテフロン。テフロンは商標名で、正式にはポリテトラフルオロエチレンという舌をかみそうな名称ですが、それはともかく摩擦に強く高負荷にも耐え、すべりも良い特性から、レーシングカーには欠かせなくなりました。サスペンションアームが部品やボディと連結される部分のブッシュや、ブレーキホースの一部に使われています。かつてブッシュは金属製で定期的にグリスアップしなければならなかったのですが、テフロンの登場でその面倒から解放され、なかばメンテナンスフリーとなりました。

すべりが良いといえば、みなさんは愛車に、添加剤のたぐいを使ったことがありますか? 金属摩擦部の抵抗を減らして性能アップ、燃費低減、寿命を延ばすといったモノで、シリコンやモリブデン、フッ素、テフロンなどを主原料としています。レーシングカーにもこれらを使用することがあります。速さのためなら何でもトライ! 実際かなりの効果が認められ、“使える”ヤツです。



こうしてみるとプラスチック類は、決して主役にはなりませんが、現代のレーシングカーを構成する重要な役割を担っていることが分かります(最初の講義に登場したカーボンファイバー・プラスチックは主役ですが!)。「おかげで鍋がコゲなくなったワ」という奥サマの声と同じように(?)、地道な部分でわれわれを支えてくれているんですね!。



第1回第2回第3回第4回第5回第6回第7回第8回第9回


※この講座は1998年〜2000年まで、本田技研工業のホームページに連載されていたものを再編集したものです。


モータースポーツ塾トップページに戻る


Copyright(C) 2006 Yurataku-ya. All Rights Reserved.