モータースポーツ塾


「レーシングカーの素材」
第5回 チタン


前回の予告どおり、今回はチタニウム(チタン)を採りあげます。まずは名前から。英語でタイタニウム。この響きでおわかりのように、語源はあのタイタニック号と同じで、ギリシャ神話に登場する巨人タイタンなんですね。

そんな名を持つチタンですから、さぞ強力な金属なんだろうとみなさんお考えでしょう。事実、チタンが世に出回りはじめた頃は「地球上で一番硬い」「一番軽い」「超希少」などともてはやされ、目が飛び出るほど高い値段がつけられたものでした。この風評、一部当たってはいるのですが、ちょっと過大評価しすぎかな? チタンは特別な金属ではありますが、それほど敷居が高いわけでもなく、人間の生活に近いところで活躍できる素材なんです。それは、これから述べるチタンの特性に理由があります。



チタンはまず軽い。というか、比強度が非常に高いため、同じ部品でも他の素材に比べ軽く作れるのです。その一方で、比剛性はカーボンはもちろん、鋼やアルミに比べて低い。変形しやすいんですね。ですから、フォーミュラカーのサスペンションなど細長い部品には、しなってしまうため使えません。このメリットとデメリットから、チタンの使用場所はおおむね決まってきます。厚みが必要で、鉄やアルミなどでは重量がかさんでしまうもの。部品を取りつけるブラケット類などですね。

そしてボルト類。しなりやすいということは、ある程度の変形に耐えられることを意味します。チタン・ボルトには締めることで引っ張られてほんの少し変形し、ナットをしっかりとらえゆるみにくくなるメリットがあります。

ところでレースの世界では、純チタン100%ではなく、より素材特性を引きだすために別の素材を混ぜたチタン合金を使います。アルミを6%、バナジウムを4%混ぜた“6-4チタン”が代表的なものです。



メリットは他にもあります。先ほど述べた「人間に近い」のは、この点。純チタンは耐食性がきわめて高く、ほとんどさびません。毒性もなく人体に悪影響を及ぼさない。これらを活かし、チタンは医療や食品関係で多く活躍しています。骨折時に骨を固定する金属、フードプロセッサーの刃、鍋などの調理用品……。最近問題になっている金属アレルギーも起こりにくいわけですから、時計やアクセサリーにもチタンが進出しているのは、単に軽いという理由だけではないのです。

また熱に強く、400度くらいまでは強度の低下が少ないのも特長。そこで高熱に耐え、しかも軽さの要求されるロケット・エンジンの部品に多く使われています。


話をレースに戻すと、フォーミュラカーでは、やはり高熱にさらされるエキゾースト・パイプをチタンで作ったこともありました。

いいことづくめのチタンですが、欠点もあります。それは、値段が高い! といってもそのものが高いわけではありません。チタンじたい、実はそれほど希少ではなく、地球上に存在する量は鉄やマグネシウムとそれほど変わらないのです。では何がチタンを高くしているかというと、工賃なんです。チタンは加工が非常に大変なのです。

たとえば溶接。溶接時に酸素と結びつくと一気にもろい材料になってしまうため、不活性ガスを満たした空間の中で、酸素を遮断し作業しなくてはなりません。機械加工もメンドウです。チタンは熱伝導特性の関係上、加工による摩擦で急激に熱が蓄積され、刃や工具と焼きついたり溶着してしまったりするんですね。くっついちゃったら作業になりません。

これらをクリアしつつ作業するには、加工のノウハウをたくさん持っている必要がある。その“技術料”が、部品の高さに反映されているわけです。将来、もっと多くの分野でチタンが使われるようになれば、値段が下がってくれるかも……。みなさん、身の回りのモノをチタンにしてどんどんチタンが使われるようにして、チタンの値段を下げてくれませんか!?



第1回第2回第3回第4回第5回第6回第7回第8回第9回


※この講座は1998年〜2000年まで、本田技研工業のホームページに連載されていたものを再編集したものです。


モータースポーツ塾トップページに戻る


Copyright(C) 2006 Yurataku-ya. All Rights Reserved.