モータースポーツ塾


「レーシングカーの素材」
第4回 鉄


今回は鉄を取り上げましょう。この新素材時代に、昔からの素材である鉄なんて……、と思う方もいるかな? ところがどっこい、使い方次第では、鉄は今でも“使える”素材のひとつなんです。


鉄がこれまで紹介したカーボンやアルミより優れている点は、何といっても入手しやすく安価で、扱いやすいということ。人類が最初に手に入れた金属のひとつですから、当然ですね! 僕らのような人間にとっては、紙や木のような感覚で扱えてしまうのです。

そういったこと以外の、素材的メリットももちろんあります。アルミ合金と並び、金属の中では重量あたりの強度に優れているんです。これを比強度と言い、重さが同じならプラスチックより小さく、アルミより強い部品にできるわけです。また製造段階で熱処理を施す、いわゆる“焼きを入れる”工程しだいでは、固さをかなり自由にアレンジできる。これも魅力。たとえばトランスミッションのギアの場合、力の集中する表面だけ固くして、内部は比較的柔らかくつまりもろくならないようにしています。


比強度の点だけなら、カーボンはこれらの点で鉄をしのぎますが、前にお話ししたように強さに方向性があり慎重な設計が必要です。一方、鉄なら設計もラクで簡単に加工できてしまう、とうわけ。

フォーミュラ・ニッポンを例に取ると、サスペンション・アームと、軸受けを支えるアップライト(ハブキャリア)というパーツそしてブレーキ・ディスク、ギアボックスの内部などが鉄製部品の代表です。ギアやボルトといった、自動車の基本をなす部分にも鉄が多く使われています。縁の下の力持ち的な部品が多いと言えるでしょう。



さて、鉄といえばみなさん、サビやすいイメージをお持ちでしょう。サビサビになればボロリと崩れてしまう……。確かに事実ですが、モータースポーツの世界ではあまり問題になりません。というのも、ひんぱんにメンテナンスを行なったり部品を交換しますから、簡単にサビを発見し防止できるんです。意外と思われるかもしれませんが、表面に油を薄く敷くなどの実にシンプルな方法を用います。サビ止めといえばクロームメッキが有名ですが、比強度の高い部品の場合、メッキ処理過程で鉄にダメージを与えてしまうことがあります。そのため、現在のレーシングカーでは、規則で禁止されています。

最近では鉄が得意としていた分野も、コストの許す範囲でしだいにカーボンやチタニウムに変わりつつあります。とりわけチタニウムは日用品でも、従来鉄が多く使われていた時計のボディやマウンテンバイクのフレームなどに進出中。次回はその、チタニウムを紹介しましょう。


第1回第2回第3回第4回第5回第6回第7回第8回第9回


※この講座は1998年〜2000年まで、本田技研工業のホームページに連載されていたものを再編集したものです。


モータースポーツ塾トップページに戻る


Copyright(C) 2006 Yurataku-ya. All Rights Reserved.