モータースポーツ塾


「空力の話」
第5回 1個じゃすまないウイング

さて、今回はフォーミュラカーのリヤウイングのいろいろをお目にかけましょう。

ウイングはダウンフォースを生み、マシンを地面に押しつけて高速走行を可能にするというのは、前にお話ししましたね。これなしでははまともにレースができないほどの生命線なわけです。ですからデザイナーは実にいろんなアイデアを考え出しています。まず当然のことながら、年がら年じゅう同じウイングを使っているわけではありません。サーキットによって、天気によっていくつものタイプを用意しているのです。




まずはこれ。下の絵を見てください。下敷というか定規というか、ペラッペラです。これは高速サーキット用。F1でいえば平均速度が250km/hを超え、低速 コーナーもあまりないイタリアのモンツァ・サーキットや、ドイツのホッケンハイム・サーキットなどでこのタイプが使われます。フォーミュラ・ニッポンでいえば富士スピードウェイ。高速コースでは最高速アップが命題なので、高速域での空気抵抗が大きいウイングでは具合が悪い。そこでこんな小さなウイングの出番となるわけです。ダウンフォースを得るというより、空気を整える感じ。かつてはいちばん上の羽根、メインウイングの下に何枚もの整流板を配置したものもありました。うしろから見ると何枚も板が並び、その1枚1枚にスポンサーロゴ。宣伝場所が増えて、スポンサーもホクホク顔というありがたい? ウイングでした。


スピード命! ダウンフォースさんはひとまず休んでてください!?

お次はこちら。一見して強力なダウンフォースを生んでくれそうでしょう? おわかりでしょうが、これはモンテカルロ市街地サーキットなどの低速コース用です。低いスピードでも充分なウイングの効果を出すために翼長(ウイングの前後の長さ)を長くし、うしろのフラップも立てて空気をしっかり受け止めます。このタイプのウイングを装着した状態を、「ウイングを重くした」などと表現することもあります。これらの極端な仕様の中間くらいのウイングもあり、実はこれがいちばん多く使われます。また雨のレースでは速度が下がるうえに、ドライコンディションよりも大きなグリップが必要ですから、ウイングを重くしたりしたり角度を強めたりします。


ボリューム満点。おなかいっぱいダウンフォースが欲しいひとはこちらを

さてどのカテゴリーでも、レギュレーションでウイングのサイズはあれこれ制限されています。そこでデザイナーはルールブックを目を皿のようにしてチェックし、“抜け道”を探すのですが、その結果こんなものも登場します。上の絵は昨年のF1でプロストが低速コースのモナコに投入したウイング。メインウイングの手前に細長いフラップを装着して、少しでもダウンフォースを稼ごうというものです。こういったトライは、たいていどこのチームでもやっています。今のところ決定的な仕様が見つかっていないので、チームごとに個性が出ておもしろいですよ。

抜け道を探るあまり、???と首をかしげてしまうアイデアも時々出現します。なかでもきわめつきは昨年登場した、通称“Xウイング”でしょう。コクピット両サイドというか サイドポンツーン上といったらいいのか。ようするにこんなとこに部品をつけるなんて誰も考えなかった場所にウイング。ということはすなわちレギュレーション上の制限もなかったわけで、すごいところに目をつけたと言えるでしょう。最初はティレルが装着してきましたが、あまりの奇想天外な場所とルックスで、効果のほどを疑う向きがほとんどでした。しかしその後数チームが追随しましたから、一定の効果はあったのかも。ほんのわずかでもいいから、ライバルに差をつけられるアイデアならとにかく試すというのは、レースに生きる人間の性なのです。しかし結局Xウイング、安全性の見地からあっさり禁止されちゃいました。その他1994年にマクラーレンが始めた、コクピット背後のインダクションポッド上部に小さなウイングを立てるのも、一時流行ったものです。



ルールとデザイナーのいたちごっこが思わぬアイデアを生む

Xウイングの例のように、新しい空力アイデアが登場すると議論が百出。その後流行ったり禁止されたりして、一件落着となるわけです。今年はどんなエアロダイナミクスが出てくることやら、“同業者”たちのお手並みを拝見といきましょう。





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※この講座は1998年〜2000年まで、本田技研工業のホームページに連載されていたものを再編集したものです。


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