モータースポーツ塾


「空力の話」
第4回 タイヤの空力について考えてみましょう

みなさんは、フォーミュラカーの外見といったら、まず何を思い浮かべますか? 細長いシャシー、ウイング、タイヤ、はたまたスポンサーロゴ……。中でも、車体から飛び出したタイヤを真っ先に思い浮かべる人が多いと思います。今回はその、タイヤの空力について考えてみます。

あれだけの存在感を持つタイヤですから、ご想像のとおり空力的にもたいへんな存在感。マシン全体のエアロダイナミクスに大きな影響力を持っています。本音を言うと、かなりの厄介者なのです。しかし、モータースポーツの世界において、フォーミュラカーは“オープンホイール”すなわちタイヤが外に露出しているというのが絶対的で不可侵な条件。誰もこれに疑問をはさむ者はいないわけですから、厄介者と嫌うことは、まるで、人間は大気中、魚は水中で暮らしているけどそんなのイヤだ! と言っているようなもので意味がない。フォーミュラに携わる者は、永遠にタイヤと折り合いをつけながら生きていくほかないのです。

それでは、タイヤが起こす空力現象を見てみましょう。まず、マシンのいちばん前に立ち、正面からタイヤを見たとしましょう。どんな形ですか。やたらデカイ長方形をしていますね。この、物体を正面から見た時の二次元の面積のことを前面投影面積と言います(昔、テレビで影を見せて人物を当てるシルエットクイズというのがありました。あれを想像してください)。これが多いほど空気抵抗が増えるのですが、タイヤは多いものの代表格なのです。




次に、タイヤは回転しているということ。野球のボールは、投手が回転に変化をつけることでいろいろな変化球を可能にします。アレはボールの回転と速度とその周囲の空気のせめぎあいで起きる現象でして、すなわち回転している物体は空気流を大きく変えてしまうのです。ボールは球体ですが、タイヤにも同様のことが起きており、マシン周囲の空気を扇風機のようにかきまぜています。雨のレースでマシンが大きな水しぶきを上げ、後方まで水煙をひきずって走っているのを見たことがあるでしょう。だいたいあんな感じの流れです。さらにタイヤは前に向かって走っている時、うしろから前へと回転しますよね?

一方、空気は前からうしろへ流れていますから、両者は実際の速度の倍でぶつかりあうことになります。電車同士がすれ違う時のすごいスピード感、いわゆる相対速度が倍になっているというヤツです。




では過去に、タイヤの影響を何とか減らそうと試みたケースを紹介します。有名なところでは1975〜1977年にティレル・チームが走らせた6輪車がそれ。最初に空気とぶつかるフロントタイヤを小さくして、空気抵抗を減らそうとしたものです。タイヤをうんと小さくしてフロントノーズに隠れるようにしました。小径タイヤではグリップが落ちてしまうので、フロントを左右ふたつずつの4輪とすることで補いました。一応の成功を見、優勝を1回記録、最初の2年間はトップランナーの一角でした。



ティレルの後は、ウイリアムズやフェラーリなどが、逆にうしろを4輪とする6輪車をテストしています。フロントより大きい、リヤタイヤの抵抗減少をもくろんだもので、ウイリアムズがティレル方式すなわち4輪を縦に並べ、フェラーリは長距離トラックやトレーラーよろしく同軸上に横に並べるタイプ。しかしいずれも所定の効果が得られず、というか空力的なメリットよりも、重量増加やマシン全長が長くなることから来るデメリットのほうが多く、お蔵いりとなったのでした。これ以降、タイヤそのものを何とかして空力を改善しようという動きは出ていません。

その後、1980年代に入り、“コークボトル”という発想が登場しました。タイヤはそのままに、周辺のボディワークを工夫することで影響を減らしつつ、タイヤによって乱された空気を逆に有効利用しようというものでした。マシンの左右サイドの、リヤタイヤ直前の部分をコーラのビンのように絞り込んであります。こうすることで、タイヤにぶつかって左右に分けられた空気のうち、マシンの内側に流れてくる空気の流速を上げて後方へ流し、リヤウイングやマシン下面のディフューザーと呼ばれる空力パーツの効き目向上を期待したものです。この考えは今も健在。ほとんどのトップ・フォーミュラカーに採用されています。




とまあ、タイヤとは格闘しっぱなしのフォーミュラカーですが、ひとつ“共闘戦線”を張っているモノがあります。ブレーキの冷却がそれで、高速回転するタイヤとホイールはそれじたいが換気扇みたいなものですから、中に格納されているブレーキを冷やすのに都合がいい。というわけで現在のマシンは、効率よくタイヤの内側から空気を採り入れてブレーキを冷却し、外側に熱気を逃すよう工夫されているのです。


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※この講座は1998年〜2000年まで、本田技研工業のホームページに連載されていたものを再編集したものです。


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