モータースポーツ塾


「レーシングチームの時間割」
第8回 この瞬間に賭ける! スタート

サーキット入りしてから準備、練習走行、予選とさんざん悩まされて(?)きました。それもこれも本番のため。いよいよ決勝レースがスタートです!

最近の自動車レースは極端な言い方をすれば、スタートから第1コーナーで勝負の50%が決まってしまいます。そしてアクシデントの多くもスタート時。明暗を分ける瞬間であり、裏を返せばリスキーだけどチャンスも転がっている。レースというものがもっとも凝縮された時間帯と言えるでしょう。




ここでは私も含め、チームスタッフの出番はありません。ドライバーにすべてがかかっています。中でも鍵を握るのがクラッチミート。どれだけ効率よくタイヤにエンジンパワーを伝え、最大限のグリップを引きだして前に飛び出せるか、ということです。そのためドライバーは、ピットロードからコースに出ていく時やグリッドにつく前、ベストなクラッチミートの感覚をシミュレートすべく、“発進テスト”を試みます。とはいえ最近のカーボンファイバー製クラッチはたいへんデリケート。あまりに何度もテストすると、肝心の本番スタートでクラッチがタレていまうのでほどほどに……。たとえば1回めのスタートがアクシデントで赤旗中断になってしまうと、2度めのスタートではクラッチがメロメロ、なんてことになりかねません。

事前シミュレーションといえば、前座のサポートレースのスタートを研究するドライバーも多いですね。たいていの場合、ひとりの競技長がその日行なわれるレースの全部でスタート・シグナルを操作しますから、前座を見ればその人物の“間合い”がある程度つかめる寸法です。その通りにならないケースもたまにありますが……。




さて、スタートして何事もなく全車が第1コーナーに消えていけば、ひとまずホッ。もちろんいい順位につけているに越したことはありませんが、順位を落としてしまったとしても気持ちを切り替え、今自分たちがどこにいて今後何をすべきかを考えます。

たとえばタイヤ交換のタイミング。最近、スタートで下位に落ちたりしたチームが、奇策とも言える作戦を採ることがあります。1周めが終わった時点でピットインし、いきなりタイヤを換えてしまうのです。フォーミュラ・ニッポンはタイヤ交換が義務づけられていますが、実はタイヤ自体は交換しないでも1レースを走りきれるだけの寿命を持っています。ですから最初にタイヤを換え、順位はさらに下がってしまうけど粘り強く走っていれば、前を走るマシンが中盤以降タイヤ交換するのに乗じて、上位に進出できるわけです。最初の数周は各車がダンゴ状態で走っていますから、どうしても自分のペースで走れないし順位もタイムも上がらない。もちろんアクシデントも怖い。タイヤ交換であえて集団から離れ、前が空いた状態で走ったほうが、順位は下とはいえ速く走れるんですね。

とまあ、こんな作戦やらアイデアやらをすばやく組み立てていくわけです。ほんとは、事前に立てた作戦どおりコトが進むのがベストなんですけどね!?



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※この講座は1998年〜2000年まで、本田技研工業のホームページに連載されていたものを再編集したものです。


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