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第3回 エンジン始動前夜
ピットの備品設営が終わり、チームの根城ができました。さて、そろそろマシンの準備にとりかかりましょうか。おっとその前にもうひとつ、やっておかなければならないことがあります。ピットの地面をキチンと水平にする作業“レベリング”です。
ピットの床はコンクリートでできています。もちろん丁寧に工事されていますから、基本的には平らな床。しかし、レーシングカーの足回りは非常にシビアでして、4輪のアライメントを正しく調整するためには、4つのタイヤが接地する地面の高さや傾きなどを完ぺきに揃えないとマズいのです。
そこで登場するのが、レベリング・ブロックとでも言えばいいのかな、要するに、高さや傾きを変えられる台のような装置。これをピットの床に敷き、マシンを載せるわけです。4つの車輪それぞれが独立したタイプや、レールが左右2本あってその間にブロックが渡してあるタイプなどいくつかあります。設置したあと水準器や治具をあらゆる場所や方向に置き、水平垂直をシビアに調整します。
マシン・セッティングのすべてはここから始まります。これなしではまっすぐ走らないかもしれないほど大切、それがレベリング。1か月ほど前スペースシャトル・エンデバー号が地球に帰還しましたが、機体を最初に宇宙へ打ち上げるための発射台の役割が非常に重要なのは、みなさんご存じでしょう。アレをイメージしてみてください。
レベリング作業の間、タイヤを担当するスタッフはタイヤメーカーのテントへ行き、そのレースで使うタイヤセットを準備してもらいます。タイヤ部隊にはほかにもいろいろやることがありまして、それは次回紹介しましょう。
さあ、いよいよエンジンです。まずサーキットでエンジンメーカーのスタッフと合流、彼らが、そのサーキット用にマッピングされたコンピュータ・データをエンジンのECU(電子制御ユニット)に入力することから始まります。サーキットに持ち込まれた時点でのエンジンは、前のレースのデータのままですから。こうして“お色直し”したエンジンの状態をチェックするのが、もっぱら1発めのエンジン始動の目的です。
車載電源の劣化を防ぐために外部からバッテリーをつなぎ、エンジンが冷えている時はかかりを良くするため、シリンダー内にガソリンを多めに入れるスイッチをカチッ。そしてスターターを回します。
ブワンッ! やあ、無事にかかりましたね! スロットルのスライドバルブを指で動かして、フワン! フワワワアン! よし、大丈夫そうだ。日もとっぷり暮れたし、今日はこれまで。メシ行こう! えっ、オイルもれ? ああメシの時間が……。
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※この講座は1998年〜2000年まで、本田技研工業のホームページに連載されていたものを再編集したものです。
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