YAMAHAより発売されているJET BOAT≪AR190≫をベースに新しいスタイルのフィッシングボートを考えてみました。
ベースになるAR190のハル(船体)とエンジンはヤマハさんに有った試作艇を提供して頂き、それを生かしてガンネル(船体とデッキの合わせ目)より上部をデザインスタディーします。
(YAMAHA AR190の詳細情報は上記画像より「YAMAHA AR190」のページをご覧ください。)
今回のコンセプト
デザインはAR190本来の流れるようなシアーラインを生かしてフィッシングボートのスタイリングを追及する。
小さいながらも4人が、ゆっくり座って釣りをすることが出来るレイアウト。
長い釣竿、タックルボックスなど、大きな収納力のあるストレージや大型のクーラーボックスを備えて、快適な釣りを。
本来は推進の動力源のジェットポンプからバイパスを取り、スモールボートには無い大容量のデッキウオッシュを備える。(散水もできる)
スモールサイズのボートの乗り心地を考え、コクピットの位置を上下動の大きいバウではなく、極端なスターン寄りのレイアウトを採用。
また従来の四角いセンターコンソールを捨てて、Jetならではの斬新なスタイルも追求してみた。
本来、ジェットボートのメインターゲットである北米をイメージして?日本発信の新しいカラーリングも考える。
現在の19ft~20ftクラスのフィッシングボートは100~200万円台なので、同じコンセプトのフィッシングボートではビジネスのチャンスは無いと考えられるので、ボートの土俵には乗らない、フィッシング仕様の水上バイクと言う考え方でデザインしました。
○基本的にマリンジェットのラインナップに加わるもの。
・バイクのような感覚、操作感、今後シートを跨たいで乗るスタイル、ハンドルもマリンジェットタイプも面白いので今後検討したい。
◎今までのセンターコンソールとは一線を画する新しいデザイン。
・釣りのできる大型マリンジェットという位置づけで、ボートとは違うオリジナリティーのあるスタイリングを考える。 マリンジェットらしいセンターコンソールデザイン。
フィッシング機能の充実。
・ルアーフィッシング キャスティングのしやすさ。(突起物が少ない)
・乗客はバウのセンターシートを中心に座り、放射状に竿を出して楽しく釣りができる。
・タックル等の長モノ収納のセンターロッカー
ロッカー上面はクッションを敷いてシートとして利用
・魚とのやり取りが楽しい水面と近いデザイン。特にスターンは出来る限り水面に近づけてウオーターアクセスを良くし、魚の取り込み時の醍醐味を重視。
・人命救助にも役立つ。
・プロペラが無い 釣り糸のライントラブルが無い。
・ポップアップクリート採用で突起物を無くし、ルアーフィッシング時のトラブルを解消。
・釣り艤装の楽な幅広でフラットなブルワーク。
等々、長所はいっぱいありますね。
◎クラス初のデッキ高圧散水栓(無料のエネルギー、ジェット推進を利用)
小さなコストで大きな効果!
強力な吐出量のデッキウオッシュを装備した小型ボートは存在しないので、Jetならではの大きな売りになると思います。
→ベイトウエルの設定も可能(次回トライ)
◎ヘルムステーションをスターンにレイアウト、走行中のソフトな乗り心地を考えた。
・スモールボートの乗り心地向上。
◎保針性の向上、操縦のしやすさを目指し、自己センタリングシステムを考えた。
スポーツボートは敏捷に動くほど良いのだと思いますが、フィッシングボートの場合は高速では直進性の良さ(目的地まであちこちふらふらせず、安全に最短時間で向かう)、スローでは回頭性の正確さ(ポイントの周辺でGPSを見ながらの正確な操船)が要求されます。
それに対して、AR-190は真逆な動きをします。
高速でも素晴らしい回頭性を見せ、スローではどこに行くかわからない(苦笑)
操舵の敏捷性を機械的に解消するセンターリングシステムを装着。
自動車のキャスターアクションのようにハンドルを切った後はセンターに戻る機構を考えてみました。まだまだ不十分な装置ですが、高速の操船はだいぶ楽になったと思います。
オリジナルのステアリング装置に後付けで装着したセンターリングシステム。
スプリングの締め込みでプリロードを調整してリターンの強さが変わります。
中がカムのような形状になっています。
西部劇に出てくるBARの扉の機構より、こちらのアイデアは生まれました。
ラッピングによるカラーリング
モデル名は、北米市場を意識して“WAVE RUNNER”を日本語直訳したネーミング。
「波走者」(はそうじゃ)
日本発信ならではのイメージとして、葛飾北斎の「富嶽百景」の波をモチーフにラッピングデザイン。
更にセンターコンソールには「歌舞伎の隈取」のアイラインをアクセントに使用した。
ただし、この隈取はイマイチ評判が良くないので、剥がしてしまう予定です。
今後の可能性
○超大型のクルーザー搭載艇としてのニーズは?
○8名の定員でテンダー機能も充実させる。
・フィッシング+人を運ぶテンダーとしての機能。
○スキューバボートとしての可能性。
○マリンジェットの基地としての利用。
○ヨットレース等のオフィシャル艇
今後の課題
○スポーツJetボート特有の旋回性、レスポンスの良い操舵感覚はフィッシングボートでは逆に障害に? 高速でシャープ、スローではコントロールの難しさ。
○スロー走行や海上での停船時の機能向上の必要性有り。(クルクル回ってしまう)
低速時のコントロール性向上のため船底にフィンキールとジェットノズルにリンクした小さなラダーを考えた。
○今後、漁船などに見られる、圧力中心を後ろへ持って行く帆を、新しい感覚のデザインで提案して行きたい。
今回の製作過程
◎1/10モデルの製作
まず初めに1/10スケールで船体のカタチと基本レイアウトを再現したモックアップを製作、乗船位置やセンターのストレージ兼シートを再現した。
スタイリング的に目玉になるセンターコンソールは従来の箱のようなモノではなく、ジェットボートのコクピットのような流線型でスマートなものをエンジンハッチ上にデザイン。
◎デザイン開始
・出来上がったセンターコンソールの1/10モデルはレーザースキャンにて測定。
その後予算が有れば、計測データをサーフェース化してマスターモデルはNCルーターにて削り出せば良いのですが、今回は少ない予算でやり繰りするために点データーのままセクション面図を起こして、発泡ウレタンを職人の手加工にて造形。
こちらの写真は、センターコンソールのマスターモデル。
左右についているべニア板のフィンは、次の写真に載っているグラブレールの位置出し用の治具となります。完成したセンターコンソール。
ボートっぽくないセンターコンソールができました。
◎船体製作
ヤマハさんに提供して頂いたAR-190の試作艇はガンネル以下だけの状態だったので、それをそのまま使用し、デッキ部分の製作はフラット部分はコンパネ(12mmベニヤ板)、カーブ部分は発泡ウレタンを削り出しながら現物合わせで製作。カタチが出来てきたところから表面にFRPをコーティング(#450×2)の防水兼補強を施し、最終表面はポリパテの研ぎ出し後に調色ゲルコートのローラー塗仕上げとしました。
べニア板+発泡ウレタンにFRPで積層した形状。
パテをもって仕上げていきます。
ゲルコート塗装直前。ほぼ仕上がってきた状態です。
こちらは塗装を済ませ、進水式時。
まだ、ラッピングはされていません。
これから日本小型船舶検査機構(JCI)の製品検査を受ける予定です。
~to be continued~