前回のブログで無事に当時のカウルの型が発掘されたところで、今回はシャーシについての作業を紹介します。
今回の紫電77レプリカ(以下:紫電)は、ベースシャーシにウエストレーシングカーズ社製の「VIVACE-7」(以下:VIVACE)を使用します。VIVACEは1970年代風のヒストリックレーシングカーを思わせる車両を目的として作られたシャーシで、その点では今回のレプリカ製作にはぴったりなシャーシと言えます。
ただし、当時の紫電は完全なオリジナルシャーシを使用しており、今回のカウルも当時の型から成形するため、このVIVACEが紫電のシャーシとして、どのような改造が必要となるのか。
まずは検討作業から行います。
こちらが、無改造のVIVACE。
写真はフロントのラジエターと左右のサイドポットは取り外してある状態です。
寸法計測とメインフレームCAD化を行います。
そしてこの検討で必要となる当時の紫電に関しての図面やデータですが・・・
残念ながら社内に残ってはいないことがわかります。
そのため、ひとまず雑誌の側面写真を転写。大まかなカウルの外形寸法を取り、合わせて雑誌に掲載された当時の紫電の記事を参考にシャシーの適合方法を検討します。
雑誌の記事内にあった当時の紫電の諸元表から、紫電とVIVACEのホイールベースやトレッドに大きな違いがあることが判明します。
この寸法差を合わせる方法を検討。
ホイールベースを110mm延長、前輪のトレッドを280mm、後輪のトレッドを80mmの拡大が必要になります。
結果、ホイールベースと前輪のトレッドに関しては、同時に満足できる長いフロントサスアームを新造。後輪のトレッドは、ワイドトレッドスペーサーで拡大することに決まります。
※フロントサスアーム(ピンク:VIVACE純正品、青:今回の新造品)
新しいフロントサスアームが付くピボットのため、メインフレームの延長も合わせて必要となります。メインフレームの延長は、「先端に新しい区間を追加する」あるいは「フレームのコックピットの区間を切断、延長して再接合する」の2つの案で検討。
また元々のVIVACEは上から乗り込むオープントップですが、紫電はルーフとドアのあるフルカウルボディ。そのためロールケージの新設とフレームサイドの高さの引き下げも必要となります。
仮案を数種類CADで作成、FEMでねじり剛性を評価。最終的に決まった改造後のフレームは元々のVIVACEより38%高剛性となっています。
実際に紫電のカウルの製品ができたところで、3次元測定器「FARO」で3Dデータ化。フレームやロールケージをよりカウルに合った寸法へ合わせ込めるようになります。
測定の結果、雑誌の写真からの想定よりもセンターカウルの全高が高くコックピットが広いことが判明。コックピットを前後に伸ばさずともドライバーが正しいポジションを取れることを確認。
結果、メインフレームの延長については「先端に新しい区間を追加する」という方法で作業を進めます。
ここからはシャーシの足回りをばらして、実際にフレームの改造となります。
定盤の上に冶具を設置し、メインフレームを固定。メインフレームの切断や溶接を行います。ロールケージには、ルーフやフロントガラスの内側に沿う様に、なめらかなカーブ状に曲げたパイプを使用。
フロントのフロア、サイドのフロア、リヤカウルを固定するサブフレームのブラケットもメインフレームに溶接。完了したところで、防錆の塗装を行います。
改造したメインフレームにセンターカウルを被せて位置を確認します。ドアとの干渉を避けるために引き下げたフレームサイド部の高さも問題はありません。
ステアリングホイールの位置もドライビングポジションが大きく異なる紫電とVIVACEでは当然異なります。(紫電の方が低いルーフのため、より寝そべるドライビングポジション)
こちらもステアリングホイールが適した位置に来るよう部品を作成、交換をしました。
また当時の紫電にはフロア(アンダートレイ)が無く、そのためか不安定な挙動に悩まされましたが、今回の車両にはしっかりとフロントとサイドにフロアが付きます。サイドはアルミ板で、フロントはシンプルな平面の形状なので、カーボンとハニカムのサンドイッチパネルを製作しました。
シャーシとカウルの適合という設計的意図で今回はフラットなフロアを採用していますが、「紫電77」というリアに大きくオーバーハングした車体に対して、フロアを使った空力的なバランスの改善も期待できそうですね。
ひとまず形になったフロントのフロアも問題なく装着できることを確認できました。
作業はまだまだ続き、次回はカウル製作編です。