SGT EVORAアップデートシリーズ第二弾はオルタネーター駆動ベルト編です。
前回紹介した通り、オルタネーターのレイアウトは完了したものの、適合するベルトがどこにもないことが判明しました。
(前回の新型オルタネーター選定・レイアウト編は、こちらをご覧ください。)
ベストサイズのベルトは…
5PK480
上の品番は以下の意味を持っています。
5:リブ数
PK:ベルト形
480:有効周長(mm)
リブ数が多いほどプーリーとの接触面積が増えるため駆動力が増加します。駆動力の計算をしたところ、安全を見ても5リブあれば耐えられると判断しました。
ベルト形はリブの形状や大きさ、リブとリブの間隔が異なります。自動車用のVリブドベルトではこのPK形が指定されています。エンジン側のクランクプーリーがこの形状なのでPK形で決定。
つまり5PKまでは譲れない条件なのです。
問題は有効周長の480mmです。どのベルトメーカーのカタログを見てもPK形の最小は600mm。とある市販車向けのオリジナル品でも585mmと、まだ100mm以上長い…。
ムーンクラフト社内でもベルト作ったら?との意見が出ましたが、そう簡単には作れない事情がVリブドベルトの製作方法に隠されています。
昔のVベルトや汎用ベルトを製造する場合は非常に長い帯を作り、必要な長さにカット、端面をつないでベルト状にする方法が一般的です。ムーンクラフトの風洞にあるムービングベルトはこの手法です。これであればどんな長さにもすることが容易にできます。
ところが、Vリブドベルトは…
図の様に幅の広いベルトを作り、必要な幅で切断するといった製造方法を採っています。
継ぎ目が無いため、耐久性や音、振動といった点で有利になるからだと推測されます。
この製造方法では幅に関してはそれなりに自由度があるものの、長さとなると『型』を新規で製作するために莫大な(数百万円程度)費用と時間が掛かります。
いくらなんでもベルトにそんな金額は掛けられる訳もなく、時間もない…
ならばベルト周長が600mm以上のレイアウトに変更すれば?と考えますよね。
もちろん担当の私も考えました。案は2つ
① プーリーに回転比率は変えずにプーリー径を大きくする。
② エンジンとオルタネータープーリーの間にもう一つプーリーを入れてベルトの経路を長くする。
それぞれの案で600mm以上のベルト周長とすることはできました。しかし①はエンジン部品に関わるためNG、②はせっかくシンプルになったレイアウトが複雑になるため個人的に却下しました。部品が増えればその分トラブルのリスクが増えるため、とにかく単純化したかったのです。
レイアウトでの解決の道を自ら断ったため、ベルトをなんとかしなければならなくなり、またしても480mm付近のベルト探しの始まりです。
会社の近くにある部品商などにも協力してもらって探したところ…ありました!
3PK485
もうこれしかない…。
周長の差は5mm。一般的には誤差の範囲ではあるものの、攻めに攻めたオルタネーターの位置なので、5mm長くても張り切れない可能性がありました。そこでオルタネーターの位置と角度を微調整して、485mmでちょうど良いレイアウトに変更。
ベルトの方は3PK485を製造しているベルトメーカーに5PKでの製作を直談判。
はじめは1000本以上じゃないと無理とか、ロット分を全て買取りが条件とか、いろいろと厳しいことを言われましたが、そこを何とか…と拝み倒して少数を格安で製作していただくことができました。何度電話したことか…。
ベルト、McLaren製のオルタネーター、各種部品が揃い、いよいよ組立!!
車両への取り付け、ベルトを張る瞬間はドキドキでした。
ベルトの長さが合わない…と言っても480mmも490mmも製作は困難。
メカニックの「ベルト張れたよ」の一言を聞いたときは正直ホッとしました。
実際にのぞき込んでみると、モノコックとオルタネーターとの距離は想定していた通りのものでした。何度計算して確かめていても、実際に取りつくまでは安心できないものです。
その後、ハーネス加工をしてエンジン始動を行いましたが、アイドリング状態からしっかりと発電していることが確認できました。
実際の走行でもシーズンを通して機械的なトラブルは発生しませんでした。
ハーネス関連で少し問題が生じた点が残念ですが、総じて意義のあるアップデートではなかったかと思います。
2回に渡ってお送りしたアップデート・オルタネーター編でしたがいかがだったでしょうか。
かなりマニアックな内容かもしれませんが、今後もお付き合いいただければ幸いです。
今後も…という訳でアップデートシリーズはまだまだ続く予定です。
‘16向けアップデート最大の改修点の“アレ”に触れないわけにはいきません。
次回も裏話を交えてお伝えできたらなと考えています。