今回より数回に分けて”昨年”のシーズンオフにムーンクラフトにて行われたSGT EVORAのアップデートについてご紹介します。
第一弾は新型オルタネーター選定、レイアウト編。
昨今の車はハイブリッドや電気自動車でなくとも『電気で走っている』と言っても過言ではなく、それはレーシングカーにおいても同様です。電気の源であるオルタネーター(発電機)はレーシングカーの場合、軽量化のために必要最小限の容量のバッテリーを搭載していることもあり、非常に重要な部品となります。
そんなオルタネーターですが、FR車用モノコックにエンジンを後方に搭載したSGT EVORAでは当初の設計時から配置や取り付け方法に非常に苦労しました。とにかく場所がないのです。
通常、オルタネーターはエンジンの横へブラケットなどを介して取り付けられ、クランクプーリーからベルトによって駆動されています。
SGT EVORAでも同様にエンジン横へ取り付けようと考えていましたが、そこに納まるスペースがないわけでもないのですが、エキゾーストパイプとのクリアランスは5㎜以下。さらに、ただ置くスペースがあるのみで駆動ベルトの張りを調整するなんて不可能…。
さてどうしたものか。
少ないスペースを利用しつつ、駆動方法や取り付け剛性を考慮してムーンクラフトにてレイアウトされたのがこちら↓
図1は赤い矢印を拡大したものになります。エンジンの前側、車体のほぼ中心部分になります。
オルタネーターやエアコンコンプレッサーの機能は満たしているものの、レーシングカーに必要な軽量化や整備性は十分なものではありませんでした。また、狭い場所に多くに部品を配置しているために熱が溜まり、エアコンコンプレッサーや駆動シャフトのベアリングなどのトラブルが多発しました。
何とかシンプルにならないものか…
実車や図面を見ながら考えました。
………
……
…
逆転で使えるオルタネーターがあればシンプルにならないだろうか。
逆転(プーリー側から見て反時計回り)のオルタネーターなんか存在するのだろうか。
そこでまずは逆転のオルタネーターを探すことから始めました。
探す条件は逆回転仕様で出力が150A以上
自動車に詳しい方はこの条件を見て疑問に思ったかもしれません。レースカーに150Aのオルタネーターなんて必要あるのかと。市販車で150A程度のオルタネーターを使用しているのは高級車などの快適装備が多く搭載された車がほとんどです。ちなみにトヨタのセルシオでも100Aのオルタネーターを搭載しています。
SGT EVORAではエンジン制御システムやパワステ、エアコン等市販車と同様の装備に加え、データログシステムやパドルシフト関連、複数の燃料ポンプといったレースカーならではの装備にも電気を使用しているため、電気消費量はかなり多いものとなります。条件にもよりますが、150Aでもギリギリのようです。
さて、条件に合うオルタネーター探しですが市販車のパーツリストやレース用部品のカタログを探しても見つからず、国内最大手の電装部品メーカーに問い合わせても製作していないとの回答でした。
そんな中でふと耳にしたのが『McLarenのオルタネーターは小さいらしい…』という情報でした。あのMcLarenがオルタネーターを作っているとは想定外でした。
McLarenならもしかするとあるかもしれない!との期待を抱いて調べてみると…そこには探し求めていた文字がありました!!
OUTPUT CURRENT : 165A
ROTATION : ANTI CLOCKWISE
まさに探していたオルタネーターです。
価格や購入手続きもクリアできそうなので採用決定!!
もちろん「McLaren」のロゴ入りです!!
使用するオルタネーターが決まったので早速レイアウトをしてみました。
設計要件は…
・取付位置はこれまで同様にエンジン前方のモノコックトンネル内
・エアコンコンプレッサーは駆動方法の変更のため移動させる
・整備性を確保
・とにかく軽く
その結果がこちら↓
図1とはほぼ同じアングルから見た画像になりますが、見える景色が大きく変ったのがわかるでしょうか。
ベルトの調整はテンショナープーリーなどは使わずにオルタネーターを偏心させて行う方式に変更して部品点数を減らしました。画像にあるベルトテンショナーも実際には使用しておらず、ベルトの張りはバールを掛けてこじって張る、最もシンプルな方法で行っています。
万が一オルタネーターにトラブルが生じた際は単体で取り外して交換することができるので作業性は大幅にアップしたと自負しています。
重量も10kg以上軽減したので軽量化にも役立っています。
さて、レイアウトも完了したのであとは部品を発注して完成を待つのみ!
…と簡単に済めば苦労はしないのですが新たな問題発生。
ベルトがない…。
実はレイアウト段階で薄々気づいてはいました。Vリブドベルトと呼ばれる駆動ベルトの規格品で最も短いものは600㎜、このレイアウトでのベルト長さは約480㎜。
120㎜の差をどうするか…。
この120㎜を巡って様々な攻防が繰り広げられました。
ベルトの攻防については次回ご紹介します。
アップデートを担当した私が最も肝を冷やしたのはこのベルト問題だったりします。
こんな感じでムーンクラフトでの開発裏話をご紹介していきますのでよろしくお願いいたします。