ムーンクラフトオリジナルカスタムカー『6×4.com』
先日、御殿場のムーンクラフトに『6×4.com』が久々やってきました。
『6×4.com』を見たことのない若いムーンクラフト社員等は突然現れた6輪車にびっくり。
普段の生活で、6輪の車を目にする機会はまずないため、驚くのも当然ですよね。
その『6×4.com』は、そのまま洗車、本日ピカピカになりました。
2002年に誕生した『6×4.com』。
こちら「シックス・バイ・フォー・ドットコム」と読み、6輪・4輪駆動のコミューターという意味を込めて命名されました
ということで、先日突然やってきました『6×4.com』について、今回はどのように誕生していったのか、製作の模様と合わせて紹介したいと思います。
18才の由良が描いたシティ・コミューター。これを現代に蘇らせようというところから始まった『6×4.com』プロジェクト。
この時点では『6×4.com』の名前はありませんでした。
こちらが18歳の由良が描いたシティ・コミューターのイラスト。
このイラストを描いてから30年以上が過ぎ、ベテランデザイナーとなった由良が再度じっくりと見直し、「時代を経ても新鮮な近未来的なデザインへ」と更にアイデアを募らせていました。
そんなタイミングで、雑誌の取材からスマートを試乗する機会が訪れます。
この取材で出会ったスマート、そしてそのスマートの試乗で受けた印象から「昔、夢見た乗り物に近い」「このクルマをベースにしたら、30年来の夢シティ・コミューターを形にできる」と、このプロジェクトへ繋がっていきます。
こうして、この雑誌の取材がきっかけで、このプロジェクトのベース車両がスマートに決まりました。
その時描き上げた二種類のイメージ・スケッチがこちら。
以前のイラストとは異なり今回はベース車両ありきのため、デザインにはある程度の制約があり、さらに30年前に描いた時とは由良自身の嗜好も異なります。
よってスタイリング的には30年前とは異なりますが、コンセプトはなんら変わらなかったそうです。
いよいよカスタム・スマートの製作作業がスタート。
根本的に背を低くしたいので、一度ルーフを切ります。
インナーで高さをあわせて溶接、その後ずれて切り取ったアウターにパネルを寄せて溶接。
上下をつめたドアもうまく取り付けができました。
ちなみにこちらは製作以前に、雑誌で由良が提案したスマートのカスタムアイデア。
その中にはルーフなしのオープンタイプもありました。
そして作業が進んでいく最中、製作中のカスタム・スマートの展示依頼が来ます。
出展先は「After 5 years(アフター・ファイブ・イヤーズ)」。
銀座の丸ビルにて開催されたイベントで、5年後に実現しているであろうテクノロジーや、5年後に登場するであろう近未来製品を集めて公開するというもの。
国の機関や外郭団体、新聞社、大学などもたくさん関わっていたそうです。
「近未来的なスマートのコンセプトにはぴったり、お披露目にはまさにうってつけの場!」
こうして、初お披露目は「After 5 years」への出展となりました。
出展決定後、「After 5 years」のイベントの趣旨を含め、さらに浮かんだアイデアのスケッチがこちら。
出展へ向けて、ここでついに6輪車となります。
コンセプトはハイブリットカーにする事。
後に追加した2輪にはインホイールモーターを装着。
6輪化により伸びたリアのスペースは、リチウムイオンバッテリーの搭載位置となります。
通常走行は追加したリア2輪のモーターで走行、高速走行ではRRの車の後輪にあたる中2輪で通常通りのエンジン動力で走行します。
その切り替えもワンタッチ。
お手軽ハイブリッド・スポーツコミューターです。
6輪化による車体のサイズも、全長は約3300㎜、全幅も1600㎜弱と、シティ・コミューターとしてのサイズには何の問題もありません。
こうして「6輪ハイブリッド・スポーツコミューター」としてのカスタム・スマート製作が始まっていきます。
この車にセットされたシートは、以前JTCC時代にジャックス・アコードで使っていたムーンクラフト製のスペシャルメイドのバケットシートです。
6輪化のためのリア・サスペンションも新設。
車体側のカスタムは、ひとまず完成です。
そしてここからボディの製作作業になります。
全体的な格好が見えてきたところで、カスタム・スマートの名前がついに決まります。
スマート改め「6×4.com」。
「シックス・バイ・フォー・ドットコム」と読み、6輪・4輪駆動のコミューターという意味を込めて命名。
名前も決まり、出展の搬入日まで既に時間がない中、さらに作業は進んでいきます。
こちらはインダストリアル・クレイ(デザインモデル用の粘土)の盛り付け作業中です。
徐々に実際のカタチになってきました。
ほぼ完成したクレイモデル。
クレイモデルからFRPで型を取り、そこに製品となるFRPを貼った所です。
製品となるFRPが貼りやすいように型は縦に置けるよう外側にフランジを作ってあります。
ドアやリアも含め全てが一体ですがカウルが完成。ひとまず確認のため被せます。
一体のカウルからドアやサイドのインテークなどをカット。
それぞれのパーツと元のスマートのボディとをつなげる面の製作作業へと続きます。
そしてパテ仕上げで、表面を実車のように仕上げていきます。
ボディ・ワーク完成。
ここからは塗装作業です。
由良のこだわりから、塗装屋さんにはかなりの手間をかけて塗ってもらったそうです。
仕上がったフロントカウル。
きれいなオレンジのウインカーレンズはアクリル板の加熱成型で製作。
ライトの上の凹みはラジエーターのリザーバータンクの逃げです。
これはボディが低くなってオリジナルの位置に残してあったタンクが出っ張ってしまったためだそうです。
そしてインテリアや外装も含めた組み立てと仕上げ作業です。
インテリアは、カーペットやコンソールなどオリジナルの物をうまく使う事が出来ました。
苦労して作ったステアリングボスは全長13cm。
そのためヘッドライトやウインカーのクラスタスイッチには手を伸ばさないと届きません。(笑)
組み立てと仕上げ作業の中では、ドアのヒンジの取り付けにもの凄い苦労をしたそうです。
ドアの断面が造形したことで10cm以上厚くなり、ノーマルのヒンジの位置に取り付けたのでは、ドアの前側がフェンダーに食い込んでしまいます。
ワンオフだからこその苦労ですが、結局ドアの蝶つがいを50㎜以上オフセットしてドアを取り付けることに。この蝶つがいの位置がコンマ5㎜ずれても、キャッチの部分までの距離が長いため、大きなズレを生んでしまいます。
このセッティングというのはとてもシビアで、かなり慎重な作業となりました。
そしてなんとか仕上げ、いよいよ展示会場へ搬入します。
展示会が始まる寸前まで、ナンバープレート部に《ゆらたく屋》マークを貼るなど、作業は続きましたが、お披露目には無事に間に合いました。
その後、無事にナンバー取得、公道デビューとなりました。
(ナンバー取得には大変な苦労をしましたが、今回は話が長くなりすぎるので割愛)
ちなみに公道仕様『6×4.com』はハイブリットではなく、RRの車の後輪にあたる中2輪のエンジン動力での走行となり、追加のリア2輪はフリーとなりました。
翌年の2003年には「東京オートサロン」に出展。
その東京オートサロン2003でのカスタムカーコンテストにて、『6×4.com』はコンセプトカー部門グランプリを受賞しました!
こちらは2013年1月11日に行われた表彰式の時の写真です。
そこから十数年、『6×4.com』は久々にムーンクラフトへ帰ってきました。
製作した当時を知らない今の若い社員たちに『6×4.com』はどのように映ったのでしょうか。
6輪車に驚きながらも「由良社長がデザインした作品というのが非常によく伝わる可愛らしいデザインだね」と、若い社員等の第一印象は一致していました。
他のクルマとは明らかに形が違うので、インパクトは抜群!
もし町でふと見かけたら絶対二度見してしまうのではないでしょうか
現在、『6×4.com』は静岡県島田市のアトラーレに展示されています。
お近くを通った際は、是非見に来て頂きたいです。
アトラーレURL:http://www.goo-net.com/usedcar_shop/0620044/detail.html
以上、今回は突然ムーンクラフトに帰ってきた「スマートクーペ」をベースとしたムーンクラフトオリジナルカスタム6輪車『6×4.com』を紹介しました。
補足ですが、こちらの『6×4.com』は当社での役目は既に終えております。
もし興味のある方がいればお譲りすることも可能とのことです。
<『6×4.com』 出展・掲載記録>
2002年 「After 5 years・ミーティング」に出展・初お披露目。
イベントでは、パーソナルヘリコプターや小型燃料電池自転車などと一緒にドリームゾーンというスペースに展示されました。
2003年 「東京オートサロン」に出展
カスタムカーコンテストにて、コンセプトカー部門グランプリ受賞。
雑誌掲載
2003年 「カスタムCAR」4月号