Bridgestone World Solar Challenge 2023〈第3回〉

・決勝レース4日目(10/25)

               トラックを風よけにしながらの朝充電

アリススプリングスを過ぎるとレースはこれまでいたノーザンテリトリー州を抜け南オーストラリア州に突入します。2つの州には1時間の時差がありノーザンテリトリーの方が1時間遅いのですが、レースは6日目が終了するまで全チームがどこにいてもノーザンテリトリー時間で行われます。そのため、間違いが起きないようチーム内の行動もゴールするまではノーザンテリトリー時間を基準にします。しかし、スマートフォンの時計を自動設定にしているとGPSで現在地を拾って、自動的に時計が1時間早まることがあります。4日目の朝はソーラーカーの朝充電のため4時に起床することになっていましたが、スマートフォンのアラームをセットしていた学生たちが深夜3時(アデレード時間の4時)に起き出して「みんな起きて!」と叫んでから「1時間早いんだった!」と気づく声や、その後の「星が綺麗!」「何時だと思ってるんだ!」と叫ぶ声が極寒のパーキングベイにこだまして、寒い中やっと眠りに就いていた身にはなかなか堪えました。3時に起きた彼らも0時過ぎまで作業をして、突然の通り雨が降る中ソーラーカーを一緒にトラックに格納したメンバーだったので、彼らの元気さには感心しました。4時に再び目を覚ますと風が非常に強く、テントの脚が1本折れていました。物が飛ばされないように撤収するのも一苦労で、この日がレース全体で最も厳しい朝となりました。

             キャトルグリッドを超えるTokai Challenger

7時20分を過ぎると偵察車は出発し、前を行くアーヘン工科大学チームやミシガン大学チームの様子を伺いつつ、次のコントロールストップの停車位置取りに向かいます。しかし次のコントロールストップに着いたもののGPSトラッカーで見ると「Tokai Challenger」はコースの途中で停止しています。ソーラーカーに何かトラブルがあったのだろうと予想しましたが、この時は本隊からこちらに必要な用事があれば衛星電話で連絡してくるからまずは待とう、ということでコントロールストップで待機しました。ストップから2時間後、「Tokai Challenger」が動き出し無線連絡が取れたので確認すると、キャトルグリッドを通過した際にリアサスペンションのロワアームのブラケットのインサートがモノコック内で剥がれてしまい、その応急修理作業をしていたとのことでした。キャトルグリッドとは、牧場同士の間を牛が道路を歩いて渡らないように鉄骨で作られた間隔の広いグレーチングのような物を言い、ここの通過時にはソーラーカーに大きな衝撃が加わります。テストやここまでのレース距離2,000kmはもっていましたが剥離が発生してしまいました。破損部分には接着フィルムの追加や補強のプライなどのケアがされており、通常なら十分と思われる設計でしたが、スチュアートハイウェイでの走行にはシミュレーションを超えた入力や思わぬ負荷があったのかもしれません。それでもチームは僅か2時間で応急修理を完了し再スタートを切りました。私は100km先行していたので作業に加わることはできませんでしたが、チームを非常に頼もしく感じました。応急修理の間にアーヘン工科大学チームとオランダの3大学連合チーム「トップダッチソーラーレーシング」に抜かれ7番手に順位が落ちてしまいましたが、修理中も発電された電力によってバッテリーの余裕もあり、「トップダッチソーラーレーシング」を抜き返し6番手で2,367km地点のパーキングベイでこの日の走行を終えました。パーキングベイではリアの足まわりを取り外し、モノコックの剥離したバルクヘッド部分のCFRPに切込みを入れ、接着剤を充填した上でバルクヘッドを両面からCFRP板で挟んでボルトで締め、剥離の修復と進展の防止処置を行いました。この夜は前日よりさらに気温が低く、翌日5日目にはゴールを果たしたいと皆が願っていたと思います。朝に風でテントを壊してしまったので、私は空いている車の助手席で眠りに就きました。

                     補修部分

・決勝レース5日目(10/26)
寒さでアラームよりも少し早く目を覚まし外に出ると、空気は締まり息も白く、辺りは冬の朝のようでした。数日前まで気温37℃前後の場所にいたのが嘘のようです。朝食のシリアルを食べ偵察車で先行し、この日の最初のCSであるグレンダンボに向かいます。グレンダンボではレースオフィシャルから、前日に破損した箇所が適切に修理されているか説明するよう指示があり、チームメンバーが補修の内容を写真を見せながら説明し、お墨付きを得ることができました。

                アデレードへのラストスパート

昼過ぎに最後のCSポートであるポートオーガスタを「Tokai Challenger」が発つ頃、GPSトラッカー上で前を行くアーヘン工科大学チームが停止しており、「Tokai Challenger」が追い抜くことができ5番手まで順位を上げることができました。後にアーヘン工科大学チームの停止理由は、ロードトレインの起こした風によってコースオフしたことと判明しましたが、幸いけが人は出なかったようです。アーヘン工科大学チームを抜いた後、アデレードまでの道のりには大規模な道路工事区間が無数に続き、40km/hの速度制限の標識が何度も現れます。通常なら110km/hで走れる区間ですが、これだけの減速を強いられるとエネルギーがあっても5日目での完走の達成がどんどん難しくなっていきます。アデレードの市街地が近づくに連れ交通量が増え信号も現れる上、今年は今まで郊外にあったゴール地点がずっと街の中心部に移ったため、最後は運が悪いと大きなタイムロスをしてしまう状況でした。しかし間一髪、16:59にレース終了1分前に5位でゴールすることができました。時間が遅いためゴールゲートをくぐるセレモニーは翌朝になり、この日は簡単に片付けをして終了しました。アデレードでは毎度お決まりの中華料理店に行ったり、他チームのソーラーカーを見て回ったりして過ごしました。

                 アデレード市街地にゴール

4年前の前回大会では、多くの有力チームがガリウムヒ素太陽電池を使用する中、東海大チームは一般的なシリコン太陽電池で2位を収めました。今年はガリウムヒ素太陽電池が禁止され、いよいよ車体の性能勝負になるかという中で、資金力による太陽電池とLi-Po電池の買い物勝負がさらに激化し、やりきれない部分はありますが、それでも5位に入れたことはよくやった結果だと思います。2年後に次回大会でのレギュレーションがどうなるかは分かりませんが、開発を重ねて優勝争いに身を置きたいです。

                   セレモニアルゴール

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