・決勝レース1日目(10/22)
まだ外の暗い朝5時から、州の機関が集まったスタート地点の「ステートスクエア」へソーラーカーを搬入しスタート準備を行います。7番手の東海大チームは最高裁判所の目の前が指定されていました。8時になり先頭の車から1分刻みでスタートしますが、ここで初めて「Tokai Challenger」にモーターコントローラーが起動できないというトラブルが起こりました。再起動を繰り返し10数分のロスでスタートしました。原因は今年初めて採用したLi-Feバッテリーの最大電圧に太陽電池からの発電が加わったことで、どこかの上限電圧の保護にかかってしまったのではないかということでした。レースが始まってしまえばバッテリーが完全に100%の状態に充電されることはないため、その後は信頼性保持を目的にあえて変更を加えない選択をしました。スタートで14番手まで順位が落ちたものの2車線区間のうちに猛追し、最初のコントロールストップ(3,022kmのコース上に指定された10箇所のサービスエリアなどで、30分間の停車とドライバー交代が義務付けられている)までに5番手へ回復しました。
最初のコントロールストップ
17時にその日のレースが終了となり、東海大チームは5番手で、スタートから633km地点のダンマラのCSで義務停車30分間のうち27分を消化しているところで終了となりました。前を行く4チームはさらに50~100km先行していましたが、欧米から参加の5~6チームがミリタリー用途の高性能Li-Poバッテリー(「Tokai Challenger」の約1.5倍の9kWh)を使用していることが分かっていたので、電池容量に物を言わせた先行逃げ切り作戦なのだろうと、この時は思っていました。このダンマラのCSはキャンプ場を兼ねたサービスエリアのためトイレやシャワーもあり気温も程よく温暖で快適でしたが、この後はそうもいきませんでした。
夕方の充電をしながらの整備
・決勝レース2日目(10/23)
ソーラーカーレースの朝は早い。前日に確保しておいた朝日を遮るもののない高台まで「Tokai Challenger」を運び、太陽電池を立てて少しでも発電量の多い角度を探ります。1日目に残した義務停車3分を消化し8:03にスタートしました。私はソーラーカーから先行してCSでの発電に有利な停車位置や向きを決める偵察車に乗っており、チームの食事を作ってくれる東海大学の職員さんも一緒だったので、時々サービスエリアやスーパーに立ち寄って食材の調達をしていました。コースとなるスチュアートハイウェイは赤い土の砂漠や乾燥した草木のアウトバックのど真ん中を貫いている一本道で、食品や燃料を調達できるサービスエリアも大体100kmおきにしかありません。携帯電話の電波もサービスエリアの側や数100km毎にある街でしか入らないので、チーム内の連絡は基本的には車載の無線で行い、急を要する連絡のみ衛星電話を使用します。
朝充電とタイヤ交換
ブッシュファイアー
この日は昼過ぎにブッシュファイアと呼ばれる山火事があり、コースの道路の2m先まで炎が迫っていました。先行する偵察車でこれを目の当たりにした時は、火の粉が飛んで炎が道の反対側の草木に移ったりしたらレース中断もあり得るだろうし、その場合は既に炎の横を通過して前を行く4チームにさらに逃げられてしまうと、気が気ではありませんでした。幸い「Tokai Challenger」やその後続のソーラーカーも無事に炎の横を通り過ぎ、消火活動も進んだためレース中断は免れましたが、ブッシュファイアの起きた地帯から南では煙で日光が著しく遮られ、発電量が落ち込むこととなりました。
17時に1,299km地点のTIツリーに到着してキャンプになりました。ミシガン大学チームも数分遅れで同じキャンプ地に到着し、予め互いの偵察隊が場所取り合戦をして決めた発電に有利な場所で夕方の充電をします。この日の夕食はシチューライスでした。実は私はシチューと白米の組み合わせが苦手なのですが、このシチューは冷凍の海産物をふんだんに使って白米との相性が非常に良く美味しかったのを覚えています。おかわりしました。
夜の調整作業
夕食
・決勝レース3日目(10/24)
煙で太陽が隠れる中での朝充電
レース3日目も朝の充電で始まり8時にスタートしました。風に乗ってブッシュファイアの煙が薄く広がり、太陽電池の性能いっぱいの発電はできません。それでも天気自体は良く、昼にはレースのちょうど中間地点となるオーストラリア大陸中心部の都市、アリススプリングスに到着しました。この頃、先頭集団の幾つかのチームが今回使用している太陽電池について情報公開を始め、実はシリコン太陽電池セルを2枚重ねにしてモジューリングしたことで1,250Wの発電量を得たチームが複数いることが分かってきました。「Tokai Challenger」の太陽電池は定格で960W強なので、他チームは3割増しの電力が使えていることになります。レース初日の結果から予想された欧米チームによる逃げ切り作戦が初日だけのものではなく、2日目以降も継続して差を広げて逃げ続けることができた理由が分かり、納得したと同時に悔しく思いました。空力に優れた最軽量の車体を学生たちと作ったことに自信を持っていましたが、こればかりは巨額の費用を要することなので簡単にはどうにもなりません。それでも少しでも良い位置を走り続けることが大切です。この日は17時に1,890km地点のパーキングベイ(トラックが休めるような砂利を敷いた広い駐車場)に到着して終了しました。オーストラリアは南半球にあるためレースが進んで南下するほど気温が下がります。また、砂漠の気候のために昼夜の寒暖差も20℃以上は当たり前です。この夜も夕飯を食べ学生たちが各部の調整作業をするのを見守りったり手伝ったりしながら就寝は0時近くになりました。その頃には気温は10℃以下になっていました。
アウトバックを走るTokai Challenger
〈第3回に続く〉