スワンネック ウイングと呼ばれる空力デバイスがあります。今回はSUPER GT GT300クラス車両LOTUS SGT EVORAにこの方式を採用したので説明してみたいと思います。(Fig.1)
リヤウイングは、従来の方式では、ウイングの下側を車体側から伸びたステーで支持していましたが、スワンネック型はウイングの上面を吊り下げる方式の支持方法です。
このウイングを吊り下げて固定するステーの形がスワンの首の形に似ているため、このような名称になったようです。レーシングカーのリヤウイングは航空機のウイングとは上下が逆の形で取り付けられていますが、空気の流れにとって重要なのは凸になった曲面の方です。レーシングカーではウイングの下側です。この凸面に空気の流れを阻害するブラケットやステーを付けず、反対側の面に取り付け部をもってきたのがスワンネック型の特徴です。
Fig.1 スワンネック型リヤウイングの装着
ムーンクラフト(株)の空力開発室では風洞実験設備を使い、リヤウイングのステーをテストしてきましたが、2020年のアップデートパーツとして実車に採用しました。
実験では従来型のステーに比べてスワンネック型の有意性が確認されています。
確認できた効果は次の2つです。
① 揚抗比(L/D)の改善
② ヨー角付加時のダウンフォース安定性
Fig.2 従来型リヤウイングモデル
Fig.3 スワンネック型リヤウイング装着モデル
風洞実験には今まで使用してきた1/5スケールモデルを使い、リヤウイングのステーを従来型とスワンネック型の2種類を装着して比較実験を行いました。(Fig.2とFig.3)
1/5スケールの風洞モデルの実験で、リヤウイングステーの違いが検出できるか、多少の不安がありましたが、実際に計測してみるとその違いがはっきりと検出できました。
Fig.4は横軸を車両のドラッグ(Cd)、縦軸をダウンフォース(CL)にとり、ウイングの角度を5°から12°まで1°刻みで変えた時のグラフです。同じウイング角度でもスワンネック型の方がダウンフォース(CL)が大きいことがわかります。
弊社の風洞モデルではリヤウイングのダウンフォースを計測できるセンサーを装着しているので、ウイング単体での特性も計測できます。
次に車体がコーナーリング状態となり、車体の中心線と空気の流れに角度が付いた時、すなわちヨー角が付いた時の様子を見てみます。風洞では、モデルを流れに対してヨー角分だけ傾けて空気力を計測しました。
Fig.5は横軸にヨー角(°)、縦軸にRrウイングの発生するダウンフォース(CL)を取ったグラフです。リヤウイングの角度を一定にしてヨー角を0°から5°まで付けた時のグラフです。これを見ても車体が直進状態の時(ヨー角は0°)から5°の時まですべての場合でスワンネック方式のほうがダウンフォースが大きいことがわかります。さらにヨー角が付いてもスワンネック方式の方がダウンフォースの低下が少ないことが確認できました。
CFD(数値流体解析)を使ってヨー角が2°ついた時のリヤウイング下面の圧力分布(Cp)を可視化したものがFig.6となります。 赤い部分は圧力が高く、青や紫色の部分が圧力が低い領域です。
スワンネック型の方がブラケット等の流れを阻害する部品がないので、従来型よりも均一な負圧領域が広がっているという計算結果になっています。
Fig.6 CFD(数値流体解析)によるリヤウイング下面の圧力分布
おかげさまで、スワンンネック型のリヤウイングを装着したLOTUS SGT EVORAは、2020年SUPER GT選手権 第2戦 富士スピードウェイにおきましてクラス優勝を飾ることが出来ました。2020年アップデートは、他にもいくつかあって、その中でどの程度スワンネック型リヤウイングが貢献したかわかりませんが、少しずつの努力が結果となって反映されることはとてもうれしいことです。
ムーンクラフト(株)
空力開発室