ムービングベルトの効果
自動車の風洞実験では、走行時の床下流れを模擬するための工夫が行われます。
通常の風洞実験では測定部の床は固定床となっていますが、
自動車の風洞実験ではいかにも車が走行しているように風の流れを再現するために、
測定部の床下に“ムービングベルト”と呼ばれる特殊な装置を設置します。
いわば風速と同じ速度で動く“床”です。
この装置を使うことで、車が走行しているような状態(=風と地面が同じ速度で動いている)を実験室の中で作り出すことができます。
このムービングベルトと併用して床面上の速度が遅い層“境界層”を制御するための装置も使われますが、今回は動く床“ムービングベルト”のご紹介を行います。
弊社のムービングベルトは模型実験用で、軸心距離1200mm、ベルト幅930mmのものです。
設計/製作は自社で行い、現状のものは2代目となります。
写真1.ムービングベルト装置(装置単体)
ムービングベルトは風洞の風速と同じ速度で動き、弊社では40m/sまで運転することができますが、この速度でベルトを安定な状態で同じ位置に保つ必要があります。
このために回転ローターにはベルトの蛇行を防止するためにクラウン加工と呼ばれる形状加工が入っています。
また、ベルトに張力を適切に与えるために張力調整機構も装置内に組み込まれています。
この蛇行制御技術もこの装置のポイントです。
ムービングベルトを使う利点:
①床付近の流れを実走行と同様の状態にできる
②実走行と同じようにタイヤに回転を与えられる
実際に、ムービングベルトの有り無しで実験を行い、空力係数の差をみると、
前後のリフトバランスに大きく差が出ますし、空気抵抗係数Cdも変化します。
特に、ロードクリアランスが小さい車では床下流れの影響が大きく出るので、
レーシングカーの空力開発にはムービングベルトは必要不可欠な装置と言えます。
弊社のGT300車両で、ムービングベルトの有無での差をみると次のようになります。
(比較のためにCd, CLなどの係数は、ベルト運転と境界層吸込みありの時を100%としています。)
フロントとリヤの車軸上でのロードクリアランスは両方とも8mmでモデルは設置されています。
この事例を見ると、空気抵抗Cdはベルトを使用しないときは10%低めに出ます。
フロントのダウンフォースClfは40%低め、リヤのダウンフォースClrは23%低めに出ています。
ダウンフォースの総量Clは30%低めとなっています。
風速25m/sで実験を行いましたが、
このような低いロードクリアランスではモデルのフロア部が完全に地面の境界層の中に入ってしまいますので、
ムービングベルトや境界層吸い込み装置が必要となります。
意外とムービングベルトの効果と影響が大きいことが分かります。
今回は、現在GT300クラスに参戦しているLOTUS SGT EVORAの風洞実験モデルを事例にしましたが、このような傾向はほかのカテゴリーの車や一般車の実験でも当てはまると考えられます。
次回は、ムービングベルトの前方に設置される“境界層吸い込み装置”の概要をご紹介する予定です。
ムーンクラフト(株)
空力開発室