空力研究所には試験体に働く6分力(X、Y、Z軸方向の力と各軸周りのモーメント)を計測する6分力計があります。今回はこの装置を使ってGT用のリヤウイングに関して風洞実験を行った結果をご紹介します。ガーニーフラップと呼ばれるウイング後端に装着する空力デバイスについて焦点を当てて実験的に検証と考察を行います。
ガーニーフラップはほとんどのレースカーのリヤウイング後端に装着されている空力デバイスですが、なんといっても脱着が簡単で、すぐにレース場で交換や調整ができる便利なものです。名前の由来は有名なAll American RacersのDann Gurney氏の名前からきており、Gurney氏が初めてレース車に使用したとされています。
風洞試験に使用するウイングモデルは20%スケールのGTウイングで、翼端板も装着されているものです。(図1)
実際にGT300 SGT LOTUS EVORAのリヤウイングとして初期段階で採用されていた翼型です。今回はガーニーフラップの装着が無いものを基準仕様として、ガーニーフラップ高さを翼弦に対して1.25%、2.5%、3.75%としたものを3種用意し、合計4種の仕様について抵抗係数Cdと揚力係数Clを、風洞実験にて計測しました。
図2は横軸にウイングの迎え角α°、縦軸に揚力係数Clをとったもので、最大揚力と失速限界がよくわかるグラフです。ウイングの角度はウイング上面基準で2°から15°まで、1°刻みでCdとClを計測しました。この図からは明らかにガーニーフラップの装着により揚力(レーシングカーの場合はダウンフォース)が増加していることがわかります。1.25%高さのガーニーはウイング角度にして3°~4°分程度の増加に相当します。2.5%高さのガーニーは5°分くらいでしょうか。3.75%高さのガーニーは6°分くらいの角度増加に相当します。
また、小さいガーニーフラップほど、その大きさの割にClの増分が大きいこともわかります。実車のサイズにすると1.25%、2.5%、3.75%のガーニー高さは5mm,10mm,15mmに相当しますが、これだけ小さな突起形状(=ガーニーフラップ)がこれほど大きな空力的変化をもたらすことに驚きます。
失速限度角についてみると、迎え角が13°以上になるとClは頭打ちになり、それ以上の角度で失速します。ガーニーフラップの装着により、失速限界角が大きくなるようなことはなさそうです。
図3のCd-Clのグラフは横軸に抵抗係数Cd、縦軸に揚力係数Clをとったもので、極曲線またはポーラーカーブとも呼ばれるもので、空力特性を比較する際によく利用されるグラフです。ウイングだけでなく車両のCd-Cl特性もこのグラフを使って検討することができます。図3からはガーニーフラップの装着によりClの増加とともにCdの増加も見ることができます。ガーニーフラップ高さ1.25%ではそれほどでもありませんが、2.5%、3.75%の高さの時はそれぞれの曲線が右方向にズレて来ています。これは徐々に抵抗値が大きくなっているということです。
Cdに関しても、小さなガーニーフラップはわずかしか抵抗の増加はありませんが、サイズが大きくなると抵抗の増分が大きくなることが分かります。実際のレースの現場でも、ガーニーフラップは10mm前後の高さのものが頻繁に使われ、20mm以上のものはあまり使われていないのは、こうした理由からだと思われます。
これまで、弊社で実際に得られたウイングの実験値を紹介しましたが、CFDを使ってガーニーフラップによりウイング周辺がどのようになっているのかを見てみましょう。
弊社のレース活動をサポートしていただいている(株)ソフトウェアクレイドルのSCRYU/Tetraという流体解析ソフトを使えばウイング周りの圧力分布や速度ベクトルを表示させることができます。このソフトで類似ウイングの後端に翼弦の4%高さのガーニーフラップの形状を作って、ウイング周りの圧力分布を比較したものが次の図4と図5です。ガーニー付のウイングでは、ウイング上面全体にわたり圧力が高くなっていることがわかります。(ウイング上面全体の赤い部分が増大している)また、速度ベクトルもガーニーフラップを装着した後端部で跳ね上げが大きく、全体的により大きな揚力を発生するものに変化しています。
ガーニーフラップの周辺でどのような微視的な流れの現象が起こっているのか研究がなされていますが、これについて詳しいことを知りたい方は次の文献がありますので、参考にしてください。
ムーンクラフト(株)
空力開発室
風洞実験設備のご紹介
【文献】
- COMPETITION CAR DOWNFORCE, Simon McBeath, Haynes Publishing,p74
- Aerodynamics of Gurney Flap on a Wing in Ground Effect AIAA Journal, Vol.39 No.5 may 2001