Formula1 フロントウイングのCFD

ムーンクラフトのスタッフブログで度々紹介しています「空力研究所の秘密」
前回🔗に続きまして、Formula1の空力について、CFD(数値流体解析)を用いて覗いてみましょう。
 
 
今回はフロントウィングに焦点を当てて解説していきます。
 
近年、フロントウィング(2019年のレギュレーション改定によりシンプルになりましたが)の周りなどをはじめ、車体上のエアロパーツの複雑さが増しています。
これには、計算コストの低下に伴って、空力開発においてCFDの活用が急速に拡大してきたという背景があります。
空力エンジニア達はこのCFDの技術を積極的に応用して、従来捉える事の出来なかった流れの情報を掴み、車体の空力性能向上に活用しています。
 
さて、写真にあるフロントウィングは、2018年度まで使用されていたウィングを模擬したモデルになります。大きく、メインエレメント、フラップ、エンドプレート、カスケードフラップ・フィンに分けることが出来ます。

図1. Formula1マシンのフロントウイングモデル
(2018年型)

 
 
これらの複雑なウィングの周りにはどのような流れがあるのか、各パーツの目的は何なのか、疑問を持たれている方も多いかと思います。
今回は特に2019年以降、レギュレーション改定により形状が大きく変わった、エンドプレート、カスケードフラップ周りに焦点を当てて、その流れ構造について説明していきます。
 
F1のフロントウィングに関して、近年ではアウトウォッシュという言葉をよく耳にされているかもしれません。アウトウォッシュとは、特に2009年のレギュレーション以降に出てきた言葉で、フロントウィング端部の風をフロントタイヤの外側に流すコンセプトのことを言います。2008年以前のレギュレーションでは、ウィング幅が1400mmに制限されていましたので、インウォッシュが定番でした。
レギュレーション改定された2009年当時のフロントウィングはかなり簡素なデザインをしていましたが、年々複雑化していき、2018年にはかなり複雑な形状を持つまでになりました。これらは、もはやアウトウォッシュの言葉だけでは説明できない複雑な車両全体の空力コンセプトの元、かなり複雑な流れ構造を持っています。これらの現象を少しでも分かりやすくするために幾つかの項目に分けて説明していきます。
 
 
① 翼端渦
では、流れを見てきましょう。図2は、渦度と呼ばれる、流体の回転を示す図になります。赤が反時計回り、青が時計回りの回転を示しています。位置としては、カスケードフラップの後端で切った面上の情報を示しています。
フロントウィングの下面では負圧が発生していますので、ウィング上面との圧力差から翼端部では写真で見ると時計方向の回転する流れができます。(青色の渦)。いわゆる翼端渦です。翼端渦は、タイヤの影響もあり、維持するのが困難で、大きなエネルギーロス(乱流)の原因となってしまいます。

図2. 流体の回転を示す図
(赤が反時計回り、青が時計回りの回転)

 
 
この翼端渦を抑える為に、図3のように、翼端部の翼形が通常とは逆で、下面に負圧を故意に発生させないような仕様を取り入れたチームも居ました。(今回の検証に用いたウィングもこのデザインを取り入れています。)これにより翼端渦の発生が抑えられています。(F1イタリア グランプリなどの低ドラッグ仕様サーキットで積極的に用いられていたデザインです。)

図3. Formula1マシンのフロントウイング(2017年型)

 
 
次は、青色の時計回りの渦について。図2をみると、エンドプレート上端や、ウィング下面のトンネル、フィンの部分では、時計回りの渦(青色)が出来ています。これらは、翼端渦を個別の小さな渦に分けることで、制御しやすい方向へシフトさせる効果を持っています。結果として、ロスの少ないクリーンな流れを維持することができます。
 
 
② カスケードフラップ
図2を見て頂くと、カスケードフラップ上のフィンでは、反時計回りの渦ができています。(赤色の渦)。この①で説明した翼端渦とは反対回りの渦は、翼端渦の安定化を図る効果があります。これにより、リアに向けてのエネルギーロスが少なくなるので、結果としてクリーンな空気を車両後方(リアウイングやディフューザー)へ導くことができます。また、上方からエネルギーを車側に引き寄せる効果もあります。引き寄せてきた高エネルギーは、後方でフロントタイヤの乱流をフロアから遠ざける仕事に利用することができます。
 
 
③ アウトウォッシュ
図4はフロントウィングを上方から見た図です。左がカスケード有り、右がカスケード無しの場合を示しています。カスケードのフィンがウィング前方で流れを外に追い出しているのが見て取れます。カスケード無の方ですと、流れはそのまま直進し、フラップやタイヤに直撃し外に出ていくことになります。(直撃するということは、ドラッグの原因となります。ましてや、高速で変形しながら回転するタイヤに高速で空気を当てることは、後流への影響を考慮すると避けたいです。)

図4. フロントタイヤ周りの流れの様子
(左:カスケード有り、右:カスケード無し)

 
 
④ タイヤ後方の流れ
カスケード有り、無しの比較で、その差が顕著に表れたのがタイヤ内側の流れになります。図5は、流体に残っているエネルギー量を示した図です。カスケードウィング有(左)の方では、翼端渦が制御されていているので、タイヤ後方の乱流領域(青色部)が小さくなっていることが確認できます。
このタイヤ後方乱流は、やがて後へ流れていきディフューザーの性能に影響します。
つまり、前側にあるフロントウィングそのものの性能を高めるのではなく、後側にあるディフューザーの性能を高めるために“アウトウォッシュ”を利用しています。

図5. タイヤ後方のエネルギー図
(左:カスケード有り、右:カスケード無し)

 
 
2019年のレギュレーションでアウトウォッシュによる乱流を抑制するために、シンプルなフロントウィングになり、この複雑な形状を持ったフロントウィングは姿を消すこととなりました。シンプルになったとはいえ、アウトウォッシュをどのようにしてキレイに流すのか、翼端渦をどのように制御していくのか等々、車両全体としての空力のパッケージングによって各チームデザインが異なるのも面白い点ですね。
 
次回は、バージボード周りの解説を予定しています。乞うご期待ください!

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