最近ますます盛んに行われているCFD(数値流体解析)ですが、GT300 SGT LOTUS EVORAにおいても、車両の全体モデルを解析したのでご紹介します。
弊社で使用しているCFDソフトは(株)ソフトウェアクレイドル社のSCRYU/Tetraです。
解析に使用したモデルはラジエータ通気を模擬したモデルで、車体の全体的な圧力分布を見る際に使用したものです。車輪には回転条件を与えて、地面に接地した状態で解析しています。車体表面の圧力の高いところは赤で、低いところは青で表示されるので、通風口の配置評価に使うことができます。Fig.1は車体上面の圧力分布、Fig.2は車体下面の圧力分布を示します。
車体下面の圧力分布は模型を使った風洞実験では圧力測定用の孔をたくさんあけて、配管によって圧力センサーとつなぐ必要がありますが、CFDでは計算で領域的に圧力分布が表示されるので非常に便利です。
(株)ソフトウェアクレイドル社のSCRYU/Tetraには可視化の機能が他にもたくさんあるので、そのうちの1つとして流線のアニメーションを一例として紹介しておきます。
Movie.1 車体周りの流れ (CFD)
(動画:Youtube – ムーンクラフト株式会社 公式チャンネル より)
前回のブログでは、フロントカナード周辺の流れをムーンクラフトの風洞実験設備を使い、タフト法により可視化しました。今回は、さらにカナード周辺の流れの様子をCFDによって見ていきましょう。CFDでは車体表面の圧力分布が簡単に表示できるので、まずはカナードの周辺の圧力分布を見てみます(Fig.3右図)。やはり、カナード上面は圧力が高く(赤い)、カナードの下面は圧力が低く(青く)なっているので、この圧力差がフロントのダウンフォースとなっていることがわかります。
Fig.3 カナード周辺の圧力分布
前回に述べたように、フロントカナードを装着すると、ドラッグは増えずにフロントのダウンフォースが大幅に増大することが風洞実験によりわかっています。
ドラッグが増えずにダウンフォースが増大する現象は、フロントアンダーパネル下の流れが改善されたときにおこる現象です。そこで、CFDでカナードのありなしで、フロントアンダーの圧力分布を見てみましょう。Fig.4aはカナードなしの時、Fig.4bはカナードありの時の圧力分布です。カナードありの時のほうが、青と緑の領域が広がっているで、やはりカナードは、フロントフロア下に影響を及ぼしていることがわかります。
Fig.4b カナードあり、フロントアンダー圧力分布
Fig.5aとFig.5bは車体の上面からみて、流れ領域の速度コンターを作成したものです。車体以外の領域で青い部分は速度が低く、赤い部分は速度が高いことを示します。Fig.5aはカナードなし、Fig.5bはカナードありの状態を示します。
カナードのない場合は、車体側面に速度の遅い領域(青い部分)が車体両側に広く存在しますが、カナードが付いた場合は青い領域が少なくなっていることが分かります。
一方、車体の表面のカラーコンターは圧力分布を示しますので、赤い部分は圧力が高いことを示します。カナードの装着により、車体上面の圧力分布の様子に相違があり、リヤウイング上面の赤い領域にも明らかに相違が出ています。
Fig.5a カナードなし、車体側面流れ
Fig.5b カナードあり、車体側面流れ
カナードは小さなパーツですが、車体の全体にわたり影響を及ぼしていることがCFDによる解析と可視化によりわかってきました。このように、ムーンクラフト(株)では、風洞実験とCFDの両者を行い、現象の解明を行うことが可能です。風洞実験だけでは解決できない問題を、CFDを使うことで、解決できることがあります。
今後の予定では、
①ラジエータダクトの形状を変更することで冷却性の改善を図る
②吸気チャンバーの形状最適化による圧力損失の低減
等をテーマとしてCFDの領域にも取り組んでいますので、順次まとまりしだい、公開していきます。
ムーンクラフト(株)
空力開発室