今回のムーンクラフトスタッフブログ・空力研究所の秘密は、前回に引き続いてディフューザー解析の後半をご紹介したいと思います。
今回も熱流体解析ソフト(株)ソフトウェアクレイドル社 ScFlowを使用して解析を行います。
前回はディフューザーの基本的な形状による性能比較を行いました。終盤、垂直板を装着したバットマンディフューザー型を試したところ渦の働きによって、大幅に性能向上することが分かりました。今回はその垂直板に注目して解析を進めていきます。
垂直板の間隔を変化させて、どういう変化が見られるか解析していきます。図1にディフューザー下面の垂直板の主要寸法を示しています。垂直板は計4枚装着しており、垂直板の間隔Lを自由に変更できるようにしています。
図1 垂直板の寸法パラメーター
垂直板の間隔Lを350mm~650mmの範囲で100mmずつ広くして、解析を行いました。
その結果が図2のグラフになります。
図2 垂直板間隔によるダウンフォース変化
動画1 ディフューザー下面での全圧の比較
2枚の垂直板の間隔を広げていくとダウンフォースが増える結果となりました。動画1は2枚の垂直板の間にできる渦によるエネルギー量を比較しています。
ここで、ディフューザーでの壁近傍の流れはディフューザー後端に近づくにつれて圧力が高くなり、ついには圧力差に耐えられず壁から剥離してしまいます(これを逆圧力勾配という)。解析結果から、ディフューザー付近に発生している円形の箇所が渦であり、この渦が壁近傍にエネルギーの高い流れを供給し剥離を抑えていることがみてとれます。垂直板の間隔が広くなると渦のサイズが大きくなり、より広い範囲で剥離を抑えていることが考えられます。
次にディフューザー部品ではなく、ボディ上面の形状によって、ディフューザーの性能が左右されることがあります。GTカーであってもウイングの高さによってディフューザーで生み出されるダウンフォース量が変化することが知られています。しかしながら、このような現象を風洞実験において検証するために、フロア下面のダウンフォース量だけを比較することは容易ではありません。CFDを用いれば任意のコンポーネントを取り出して、そのダウンフォース量やドラッグ量を知ることができます。
図5は図4のダックテール形状のスポイラーを車両後端に装着した際の流れ場をベクトル表示させたものです。矢印は流れの向きを、矢印の色は流速の大きさを示しています。
図5の上図はスポイラー未装着時、下図は装着時の解析結果になります。
図5 ダックテール型リアスポイラー装着有無による比較
スポイラー自体のダウンフォースやドラッグを除外し、フロア下面のダウンフォース量のみを抽出・計測し比較したものです。図5の下図はスポイラーの生み出すアップウォッシュ(吹上げ)がフロア下面の空気を吸出し、ダウンフォース量が増加していることがわかります。
今回紹介したフロア下面の解析は、ほんの一例であります。スーパーGT GT300クラスを戦うEVORAの空力開発では、フロントスポイラーやリアウイング、インテークダクトなど様々な箇所の圧力・流速等を抽出し、比較・利用しています。これはCFDを用いることで得られる非常に大きなメリットと言えるでしょう。
さて、今回のディフューザーに関するCFDコラム、お楽しみいただけたでしょうか。
レーシングカーの空力コラムを通じて、より多くの方々にムーンクラフト株式会社を知って頂くことを願っております。今後とも様々なCFDを用いた技術コラムを投稿していこうと思いますので、Facebook / Twitter(ハイパーリンク)、フォローして頂けますと幸いです。
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