CFD レーシング コラム ディフューザー編

久しぶりの記事となる、今回の空力研究所の秘密は“ディフューザー”についてです。
これまでも何度か紹介をさせていただいている(株)ソフトウェアクレイドル社 scFLOWを用いて数値流体解析(CFD)を行い、ディフューザーの効果と性能向上について紹介したいと思います。
 
まず初めにディフューザーとは?・・・フラットボトム後方の跳ね上げ形状のことで、フラットボトム下面の空気をスムーズに引き抜き、ダウンフォースを得るものです。(図1)

図1 ディフューザー画像

 
 
次にフラットボトムの原理についてですが、小難しい数式の説明をすると拒絶反応を示す方もいらっしゃるかと思うので、手短に簡単に説明をしたいと思います。

図2 フラットボトムの原理

 
 
上のイラストはベンチュリー管と呼ばれるもので、断面A1から断面A2に縮小するような流路を表しています。縮小前のA1での流速V1 圧力P1とし、縮小後のA2での流速V2 圧力P2としています。
質量は保存されるので、式1のようになります。そのため、断面積が減った分、流速は増えることになります。これを地面とフラットボトムに当てはめると、車体前方の空気はフラットボトムに入ることで、一気に断面積を失うことになりますから、当然フラットボトム下面での流速は速くなります。
式2は皆さんご存知かとは思いますがベルヌーイの定理で、エネルギー保存を表しています。第1項は速度によるエネルギーで、第2項は圧力によるエネルギーであり、その和は保存することを表しています。“流速が増加すれば圧力は低下し、圧力が増加すれば流速は低下する”これは本記事でも重要なポイントとなります。
フラットボトムの下面では流速が増加するので、圧力は低下しフラットボトムは地面に吸い付けられる。これがフラットボトムによるダウンフォースです。
そしてディフューザーは下面の空気をロスなくスムーズに車体後方の気流に戻すことでフラットボトム下面の空気を引き抜く働きをするのです。
 
前置きが長くなりましたが、本題のCFD解析に入りたいと思います。今回はディフューザーの効果を検証したいため、自動車の形状をしたシンプルモデルを用意しました。(図3)
モデルは全長4.5m全幅1.94m 全高1.1m 任意の角度・形状の二次元的なディフューザーを装着しており、今回は計算時間の削減および解析の収束性を良くするためタイヤ類は割愛させて頂きました。フロント車軸(仮定)より2mの位置をディフューザー開始点として、車高・ディフューザー角度の2つのパラメーターを変化させて、ダウンフォース量がどういう変化を示すか解析を行っていきます。

図3 シンプルモデル

 
 
まず1つ目は車高で、フラットボトムが生み出すダウンフォース量は車高によって大きく左右され、レースセッティングでも非常に重要なファクターであります。先ほど紹介したベンチュリー効果をみれば車高を下げれば下げるだけ流速が上がり良さそうに思えますが、実際にはどうでしょうか。
ディフューザー(斜面角10°)を装着した状態で、風速50m/s(180km/h)の流れ場に設置し、ストレート走行時を再現しました。車高を160mmから20mmずつ下げてダウンフォース量を解析しました。

図4 車高によるダウンフォース変化

 
 

図5 側面からの剥離の様子

 
 
結果はグラフ図4の通りで、セオリー通り車高を低くしていくとより多いダウンフォースが生み出されることがわかります。しかし、80mm以下の範囲で車高を下げていくと急激にダウンフォースを失っていることがわかります。図5では各車高でのディフューザー断面での速度分布を比較しており、流速の速いところは赤色、遅いところは青色となっています。車高100mmでは160mmに比べるとフラットボトムでの流速が大きいことが見て取れますが、車高40mmでは斜面始点で剥離を起こしており、急激にダウンフォースを失った原因であると考えられます。
 
次にディフューザー性能を決めるうえで重要なファクターと言ってよいのが、ディフューザーの角度でしょう。例えばF1マシンや往年のルマンカー等では20°以上まで立ち上がったディフューザーを装着している姿をよく見かけますが、GT車両で10°前後が一般的かと思います。では今回のようにシンプルな二次元ディフューザーでは何度くらいが最適なのか調べていきます。今度は車高を一定とし、斜面角度を5°ごとに増加させて解析を行いました。

図6 斜面角度によるダウンフォース変化

 
 

図7 ディフューザー底面での剥離の様子

 
 

図8 ディフューザー底面でのWSSとオイルフローの違い

 
 
図6のグラフを見ると、10°をピークにそれ以上ダウンフォースが増えることはなく、過度な角度の範囲で、むしろ大幅に低下していることがわかります。20°ではピーク値の1/4程度まで低下しています。これは前項と同じくして、やはり過度に角度をつけると、ディフューザーで剥離を起こし、引き抜き効果が悪化していることが原因でしょう。図7では斜面角度による表面圧力と断面での流速分布の違いを観察することができます。下側の断面で低速の部分(青色)は剥離した流れを表している。表面では赤い部分は圧力が高く、青い部分は圧力が低い所を表していて、剥離を起こしていないディフューザーでは斜面前の圧力が低くなっておりディフューザーがフラットボトム内の空気を効率良く引き抜いています。
図8はディフューザーを真下から見上げており、表面コンターは壁面せん断応力(WSS)を表しており、剥離している箇所を見ることができます1。またscFLOWではオイルフローと呼ばれるものを使用すると、壁面での流れを可視化することができます。テレビでF1のフリープラクティスを見ていると蛍光色の塗料をマシンに塗布して走行している姿をよく見ますが、いわゆるフローヴィズ(専門的には壁面油膜法)と呼ばれ、このオイルフローと近いものだと考えて下さい。オイルフローを表示すれば良好な油膜模様と不良な模様を比較することができます。
 
余談にはなりますが、筆者も非常に興味があるバットマンディフューザーと呼ばれるような形状のデザインをトライしてみようと思います。ディフューザーに垂直板が複数枚装着され、半円状になるように滑らかに隅部を丸めたデザインとなっております。簡易的にモデリングを行い、垂直板なしのディフューザーと解析結果を比較しました。

図9 ディフューザー底面での渦の様子

 
 

図10 ディフューザー近傍の流速アニメーション

 
図9では垂直板のエッジで渦が生成されており、半円状の流路の中で大規模な二つの渦が成長していることがわかります。アニメーションを見てい頂くと、この二つの渦が剥離を防いでいることが明確にわかるかと思います。さらに両脇からディフューザーに気流を引き込んでおり、流入部は流速が高く、圧力が低くなっています。結果としてダウンフォース量は83%と大幅に向上しており、垂直板が生み出す渦は非常に大きな効果を持っていることが分かります。
垂直板の配置や形状によってかなり効果が変動することが予想できます。このあたりは次回、検証していきたいと思います。
 
 
注1)
境界層内での速度分布を考えたとき、剥離点では主流方向の速度勾配がゼロ、つまり壁面せん断応力(WSS)がゼロとなることから、WSSを可視化することによって剥離点を確認することができます。ちなみに今回使用した熱流体解析ソフトscFLOWでは簡単にWSSを表示することができます。
 

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ムーンクラフト(株) 開発部
shinse@mooncraft.jp

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