“カナード”と呼ばれる空力デバイスもレーシングカーではよく使われます。今回はGTカーに使われるフロントカナードについて、その働きを見ていきます。
GT300 SGT LOTUS EVORAでは3種類のフロントカナードを用意してセッティングに備えています。(Fig.1)
ムーンクラフトの空力開発室では風洞実験設備を使い、数多くのカナードをテストしてきました。カナードはそれを装着するとドラッグ(Cd)はほとんど変化せず、フロントのダウンフォース(CLf)が増加するというありがたい効果を生み出してくれます。(Fig.2)
フロントフェンダーの両サイドに急角度のプレートを付けると空気抵抗が増えそうですが、実際はそうではありません。Cdの増加は0.3%にとどまり、フロントのダウンフォースを示すCLfは8%増加、リヤのダウンフォースCLrは2%低下する結果となりました。
Fig.1 GT300 SGT LOTUS EVORA のフロントカナード
今回は、カナードの周辺の流れを可視化できるように、小型のタフトグリッドを製作してみました。直径1mmのピアノ線で格子状のグリッド(網みたいなもの)を作り、その交点に長さ18mmくらいの毛糸を取り付けたものです。毛糸は流れに素直に追従するように、その根元に小さなビーズ玉が付いています。ビーズ玉がベアリングのような役目を果たして、毛糸は風の流れに沿ってなびいてくれます。格子の大きさより毛糸の長さを少し短くしておくと逆流のある部分もうまくその方向を向いてくれます。(Fig.3)
カナードの近くにこのタフトグリッドを置いてその様子を動画としました。(Movie.1)
カナードの近くにタフトを持っていくと、カナードの下面側で毛糸が勢い良くクルクルと旋回することがわかります。ここでは、強い巻き込み渦ができていることが考えられます。
このタフトグリッドは部分的ではありますが、流れの方向や乱れの大きさまで、目視できますので意外と役に立ちます。CFDでも流線や圧力分布の可視化はできますが、やはりタフト法は、目視で立体的に流れを体感できるという大きなメリットがあります。
Movie.1 カナード周辺の流れ(タフト法)
❝動画:Youtube – ムーンクラフト株式会社 公式チャンネル❞
さらに今回は、可視化の例としてスモークを使って車両周りの流れを可視化した動画も掲載しておきます。スモークによる可視化では大まかな空気の流れと、逆流領域や乱れの強い領域で煙が拡散/発散している様子が見えるかと思います。(Movie.2)
局所的に流れの剥離や逆流領域を調べるには、前述のタフト(毛糸など)を棒に先につけたもので、丁寧に車両の各所を見ていく作業を行います。
Movie.2 スモークによる車両周りの流れ
❝動画:Youtube – ムーンクラフト株式会社 公式チャンネル❞
これまで、ムーンクラフトの空力開発室は“空力研究所の秘密”ということで、いくつかのアイテムについて実験結果とその数値をそのまま公開してきました。単なる用語解説ではなく、実験的なデータを元に現象を説明していきたいためです。境界層の厚さは何ミリ?GTウイングの揚力係数(CL)、抗力係数(Cd)の値は?このような実際的な数値は教科書には載っていません。実際の実務ではこれらの具体的な数値が重要であることは間違いなく、どんどん公開していくべきだと考えています。これからもムーンクラフトの空力開発室はこのオープンスタンスは変えずに秘密を公開していきますので、今後もおたのしみに。
ムーンクラフト(株)
空力開発室