境界層を制御する!!!

自動車の風洞実験で重要な項目の一つに、地面相似の実現があります。床下の流れを実走行の状態に近いものにする必要があります。

具体的にいうと、固定されたモデルに対して、モデルの下にある地面が相対的に動き、かつその流れの分布については実走行と同じ一様な風速分布である必要があります。地面をモデルに対して動かす装置としてムービングベルトは前回、ご紹介しました。そして、床下流れ、特に床面付近の高さ25mm以下の領域の速度分布を一様にする方法の1つに今回説明する“境界層吸い込み装置”があります。

この装置は文字通り、床面の近傍にできる境界層を強制的に吸い取ってしまい、

主流とほぼ近い速度分布を実現しようとするものです。この装置をムービングベルトの前方に配置しておけば、両者の作用の結果として理想に近い地面相似を実現できます。弊社の境界層吸い込み装置は、次の写真のような箱形状ですが、上部の天板には幅2mmのスリットが2本あり、ここから吸い込みファンの吸引力を利用して、境界層を吸い取る仕組みです。吸い込み口の形状は他にパンチプレートを使ったものもあります。

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図1. 境界層吸い込み装置

現状では吸い込み口の方向は、流れに垂直となっていますが、前方傾斜型や天板に段差やスロープ角をつけた方式も考えられます。吸い込み口の方式は境界層厚さに影響が出やすい部分と考えますので、今後いくつかの方式を試す予定となっています。

実際に弊社の風洞で風速100km/h(=27.8m/s)、吹き出し口から200mm下流の位置で境界層分布を計測したものが、次の図2となります。

境界層制御を行わず、送風だけを行った場合の速度分布(緑の線)では、床面から25mm程度までの高さ範囲で、境界層の存在が明らかとなっています。これに対して境界層吸い込みファンを稼働させたときの速度分布(赤の線)は、速度欠損の領域が10mm以下の高さまで改善されています。境界層吸い込み装置の効果が大きく出ています。さらに、ムービングべルトを稼働させて、床面を主流と同じ速度で動かすと高さ5mm以下の領域での速度欠損の程度が改善されています。(青い線)

この速度分布の図からわかるように、ロードクリアランスの低い車を風洞試験する際は、床面の境界層を制御することが非常に重要です。前回ムービングベルトの紹介をしましたが、GT300のモデルでは境界層制御の有無でドラッグ方向で10%、リフト方向で30%~40%も計測値に差が出たのもこのような速度分布の違いによるものと考えられます。

(ムービングベルトについての紹介ページは、こちらをご覧ください。)

%e5%9b%b32図2. 境界層速度分布の実例

関連項目として境界層制御のためには、その速度分布を計測する風速計が必要ですが、今回はそのために超小型のピトー管を独自に設計製作して、実験に使用しました。総圧を計測する管の直径はΦ1.4mmですので、地面ぎりぎりの高さ(最低で1mm高さ)まで速度を測ることが可能となりました。

この小型ピトー管は、3次元のトラバース装置に取り付けられていて、位置座標を事前にPCのプログラムに入れておけば、自動的に位置変更を行い、その位置での速度計測が行われるようになっています。この装置の製作によって、境界層の速度分布や主流の速度分布まで広い範囲での速度分布が正確に短時間で計測できるようになっています。

弊社では、この超小型ピトー管と3次元トラバース装置を使って、さらに緻密な境界層制御を行い風洞実験設備を充実させていきたいと考えています。

ムーンクラフト(株)
空力開発室

%e5%9b%b33図3. 超小型ピトー管と3次元トラバース装置

%e5%9b%b34図4. ピトー管の拡大写真

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