東京モーターショー2001 特別企画
スペシャル対談 「ジェイ・メイズ × 由良拓也」

10月25日、第35回東京モーターショー2001の会場である幕張メッセに近いホテルニューオータニ幕張の一室にて、デイトナ誌の企画により、フォード・モーター・カンパニー副社長であるジェイ・メイズ氏と、レーシングカーデザイナー・由良拓也氏の対談が行われました。
アウディ〜フォードと世界の自動車業界の一線でデザインを手掛けてきたメイズ氏と、レーシングカーで培われた独自の視点で自動車のデザインを見続けてきた由良氏の興味深い対談を、ゆらたく屋東京モーターショー特別企画としてお届けします。
対談の進行は、デイトナ誌編集長でありアメ車事情に精通した秋元一利氏です。

写真左より、ジェイ・メイズ氏、通訳、由良店長、デイトナ誌編集長・秋元一利氏。

今日は質問したいことがいっぱいあって……じゃ、始めますね。プロフィールを拝見したのですが、ずっとドイツのクルマのデザインを手がけていたそうですね。フォード・デザインに移ったきっかけは?

アウディで14年間仕事をしていました。同社を辞めた後独立して、自動車業に関するコンサルタントとしてロサンゼルスにて仕事をしていました。そのクライアントの一社が、フォードでした。当時、サンダーバードに対してコンサルティングを行い、色々とお話をしたのですが、そこで私が申し上げたことを気に入ってもらったようでした。

では、元々仕事の地盤はアメリカでしたから、フォードの壁はなかったんですね。ボクのイメージの中ではずっとヨーロッパ、例えばドイツにいらっしゃったのかな、と思っていたものですから。頂いたプロフィールにはあまり詳しい説明が書いてなかったもので。

ドイツに15年間いました。そのうちの14年間はアウディで、1年間はBMWで仕事をしていました。1994年にアウディを退社してアメリカに来ましたが、1994年から1997年まではコンサルタントとして仕事をして、1997年にフォードに入社しました。

今までの作品を拝見させていただきましたが、スタイリングの部分で、保守的といいますか、非常にカチッとしている印象を受けます。アウディ・デザインというのは真面目なスタイリングで有名ですからね。ただ、フォードに移籍してからは遊び心を出しているように感じます。その変化の経緯(いきさつ)というのはあるのでしょうか?例えば、ドイツ・デザインに息が詰まっていて、フォードになってパーッとはじけたとか。(笑)

いいご質問ですね! 11年間ドイツのデザインを勉強してきました。おっしゃる通り、ドイツのデザインというのは真面目なところがありまして、バウハウスの主義ですとか、機能面などを基本にしていますので、あまり面白いところがないと。また、技術的な属性を使ってクルマを作っているというところがあります。これから15年間のアウディやメルセデス、BMWがどういうクルマになるのか描いてくれ、と言われれば描けてしまうと思いますので、正直あまり面白くはないと思ってはおります。

ですが、アウディでは、2つ面白いと思ったクルマがあります。それは、情感に訴えるような感情が入ったものです。ひとつはオーバスです。10年前に東京モーターショーに展示してあったものです。そして、もうひとつはニュービートルです。この2台を通して、クルマには情感に訴える感情のようなものがあるんだと認識しました。この車に対する思いの変化がアウディを退社することになった一つの理由です。

私は、アウディが持っているような、チュートニックなデザインも好きですが、同時に大衆に受けるようなデザインも楽しんでいます。チュートニックなデザインというのは、冷たくてエリート的で、非常に真面目で幾何学的、そしてテクニカルというものです。ドイツのクルマを一言で言うなら、エリート主義的といえるのではないでしょうか。それに対してフォードのクルマは、一般の人向けの民主的で内包的な、エリート主義の対極にあるデザインだと思います。100年前にヘンリー・フォードが狙っていたこと、しようとしていたのがそうだと思います。より多くの人に、より多くのクルマを提供したいという思いが形になっているということです。

少し話題が変わるのですが、最近旧いクルマのトレンドいうかモチーフが用いられたネオ・クラシカルといいますか、そういうものが再現されたクルマが目立つようになりました。そのような風潮が東京モーターショー以外でも出てきていると思います。サンダーバードやニュービートルもそうですね。これに関してはどう感じますか?


トレンドということではなく、デザインをするひとつの手段といえると思います。ビートルでも、サンダーバードでもフォーティーナインでも、デザインする際に何をするかといいうと、クラシックを再現するのではなく、そのクルマをリイッシューしています。それを新しい世代の人に楽しんでもらおうとしています。
同じことが時計にもいえます。由良さんがなさっている時計(パネライ)もやはり旧い時計のリイッシューだと思います。やはり現代的なトレンドを持ってはいますが、旧いデザインです。ここで何が重要かといいますと、クオリティライフといいましょうか、それを使うことで楽しんでもらうことだと思います。

デザインは、ブランドによってもまたブランドごとのお客様、客層によっても違います。ですから、単にレトロなものだけがデザインの方向性ではないと思いますし、ジャガーでもランドローバーでもボルボでも、新しい製品は常に先進的でプログレッシブです。しかし、その中で皆さんに楽しんでもらうためのものを提供する余地はあると思っています。

おっしゃるとおりだと思うんですけれど、みなさんに楽しんでもらうという部分の中の一番大事なものは、デザイナーが楽しんだなという感じを受けるかどうかだと思うんです。それが伝わるとユーザーも楽しめるのではないかなと。これが苦労して苦労して、というデザインはクルマでもわかるんです。ところが、ニュービートルやサンダーバードは、これは楽しかったよ。こんな面白いものを作ったんだよ。そういう感情がクルマに表れていると思うので、ボクはいいなぁと思っているんです。

そうですね。これは非常にデリケートなことだと思うのですけれど、他のデザイナーのためにデザインしているわけではなくて、あくまでもお客様のためにデザインをしているということですね。

ジェイ・メイズ 1954年生まれ。オクラホマ州出身。
フォード・モーター・カンパニー、デザイン担当副社長。
1997年にフォード社に入社以来、フォード、マツダ、マーキュリー、リンカーン、ボルボ、ジャガー、アストンマーチンの製品のデザインに関する全責任を持つ人物。今回のモーターショーの出品車にも彼が手がけているものが多く、すでに販売されているサンダーダーバードやエクスプローラーのほかにも、フォード・フォーティーナインやジャガーFタイプ、ボルボ・セーフティーカーといったコンセプトカーなどの開発も行っている。かつてのアウディ80や、のちのニュービートルとなるフォルクスワーゲン・コンセプト1も彼の手によるもの。

デイトナ(Daytona) 黄色い表紙と所さんでおなじみのアメリカン・ライフスタイルマガジン。由良店長は、創刊以来「カスタムノート」という市販車をイラストでカスタムするというコーナーを執筆中。


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