第3回 驚きの連続だった製作工程、そして販売へ

設計図ができあがり、製品化に向けての作業が始まった、というのが前回までのお話。今回は、開発ストーリーの完結編、プロトタイプができるまでの最終段階の模様をお伝えしよう。

大まかなデザインがまとまったところで、図面化、設計、そして実際の時計づくりへと入っていくんだけど、SEIKOはやはりこの道の雄というか、僕とのやりとりでは、その都度、図面とコンピューター・グラフィックスがついてくる。だから画面の中で相当高いレベルで商品イメージを検討することができるんだ。ここに紹介するCGはほぼ最終形のものだけど、すごく精巧で感心させられちゃうよね。おまけにこういうCGが、こっちが拍子抜けしちゃうくらいあっという間にできてくるだよ(きっと担当の方が頑張ってくれたからなんだろうけどね)。このCGも、この前段階のものを見ながら、「ここがこうで、あそこはこういう風に」なんていうやり取りを経て出来上がったものなんだよ。



この最終形状になる前に、よりイメージをつかみやすいようにということでできてきたのが、ここに紹介する「光造形」によるモックアップ・モデル。光造形というのは、CADのデータをもとに、液状の紫外線硬化樹脂(紫外線に反応して硬化する樹脂のことだよ)を、紫外線レーザーを使用する特殊な装置で積層させ、寸分違わぬ精密な立体物を短時間で作製するものなんだ。この段階でのSEIKO側の回答は、ディティールを最終案のようにするには難しいんじゃないかということで、竜頭の部分が写真のようにえぐられているものだったんだ。でも、僕としてはこれじゃちょっと納得がいかなかったので、もうちょっと詰めましょう、という希望を出して、結局は先に紹介した最終案になったというわけなんだ。


話しは変わるけど最近のF1の風洞モデルもこの光造形で作られているんだよ!何しろあのグニャグニャと曲がったウイング内に圧力計測用のエアーの通路まで製作できちゃうんだから凄いよね。

さて、こんな風に製造工程の途中でもバーチャルで製品化してしまうので、僕みたいなアナログ人間は、「なるほど〜」とか「はぁ〜」とか感心させられることばかり。新しい驚きがあって、今回の「ユラタクモデル開発」は、とても楽しかった。
特に、僕らがいうところの「試作品」というのがないというのは意外だったね。今回僕がデザインした時計は、最大の特徴でもある「時計本体が起き上がる」という稼動部分があるけど、SEIKOの通常のデザインのものには、そういうところがないでしょ。だから、いわゆる一般的なデザインのものだったら、もっと工程は少なくて済んでしまうはずなんだ。こういう開発の仕方を採用することで、開発期間が短縮できるんだね。


もうひとつ驚いたのが、CADにしろなんにしろ、精度がもの凄く高いってこと。そもそも設計に使用される単位が僕らが普段使っているものと違うんだよ。通常僕らのいう「1」といったら、それは「1o」のことだよね。でもSEIKOの場合は「0.01o」。つまり僕らのいう「1」は、彼らにとっての「100」になるってことなんだ。
もっとも、これを僕らと同じような感覚でやっていると、小数点の表示が増えて、図面がもの凄くうるさくなっちゃうんだよね。だから彼らの世界では、この単位はごくごく当たり前なんだろうね。ちなみに、この時計のケースの寸法を見ると、「φ4460」となっているんだ。つまりφ44.6ということなんだけど、これからしてもう「ははぁ〜」の世界だったよ。
ただ、工作の精度を上げるために、単位を小さくすることは、レーシングカーの世界でもよくある話だから、その点はなじみやすかったよ。普通の人にすると、「なぜφ44じゃなくてφ44.6なの?」って思うかもしれないけど、機能を優先するレースカーの設計をしていると、どうしてもその寸法で作らなければならない場合というのがあるからね。

こういった過程を経て生産段階に入ったら、今度はプロモーション活動。SEIKOのサイトなどに使われるパンフレット製作や雑誌の取材ロケをやったりするんだ。このロケに使われたものは、実は量産品ではなくて撮影用モデル。これは、市販バージョンとは違って、寸法通りに削り出しで作ったものなんだよ。



こうして、去る7月8日に発売が開始された「SEIKO PROSPEX 由良拓也モデル」は、おかげさまで好評を博しているとのことで、メーカーの在庫もほとんどないらしい。僕もひとまずほっとしているところだけど、もし、よかったらぜひアナタの腕にも!

とにかく、今回はとても楽しい仕事だった。もし、チャンスがあったら、次はもっともっとこだわった時計を作ってみたいよね。それと同時に「プロダクト・デザイン」というのは初体験だったので、すごく勉強になった(SEIKOさんに感謝!)。これを機に、デジカメや携帯電話も、ぜひ手がけてみたいね。

セイコーウオッチ株式会社 http://www.seiko-watch.co.jp/

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